229:ステーション[マグ*ネス]
そこは、ただの空き地のはずだった。
子どもが秘密基地をつくるような、遊び場にしかならない原っぱ。それが、大々的に何かの建設工事がはじまっているようだった。
「いつの間に。ねえ、ネス……ここに何ができるの?」
「あ、ああ……そういえば、召喚獣鉄道が開通するっていっていたな。ここに駅ができるのだろう」
「召喚獣鉄道? 駅?」
「金の派閥が進めている、召喚獣に鉄道をひかせ、人や物資を遠くへと運ぶんだ」
「ふーん。それで便利になるのかな」
「どうだか。召喚獣鉄道は、とんでもなく乗車料金が高いから。とても、一般市民が気軽に利用できるもんじゃないだろう。一般市民は相変わらずこつこつと自分の脚で移動するしかないわけだ。まったく、金の派閥は儲け主義だな」
「そう」
マグナの表情が曇った。
「どうした? マグナ」
「この原っぱ結構好きだったんだ。昼寝には導きの庭園のほうが、適していたけれど、こっちは遊べるんだ。子どもたちのボール遊びに混ぜてもらったりもした」
「子どもと?」
目を丸くするネスティにマグナは少し唇を尖らせた。
「そんなに変? 俺、小さい頃遊んだ記憶ってあんまりないんだ。ボール遊びなんてしたこともなかったし」
「あ、いや変というほどのこともない」
確かにマグナは、幼いころから一人ぼっちで、純粋に遊ぶなんて余裕はなかったのだろう。ネスティとは別の意味で。彼は手に入れることのできなかった子どもの時間を取り戻したかっただけなのかもしれない。
「俺のお気に入りの場所がなくなっても、召喚獣鉄道ができることで、みんなの生活が便利になるならあきらめもつくんだけど。そんな、金持ち専用鉄道のために、お気に入りの場所が一つ消えるなんて、なんか嫌だ」
「君の土地でも遊び場にしていた子どもたちの土地でもないのだから、仕方ないさ」
「俺の好きな場所って、どんどん新しい商店街ができたり、誰か金持ちの屋敷ができたりで……。わかっているんだけど、寂しい」
「お気に入りの場所はまた新しく見つけることができるだろう? 今の君の一番お気に入りの場所はどこなんだい?」
そう言われて考える。
導きの庭園のベンチ……市民の憩いの場だ。ここがなくなることはない。でも、一番ではないような気がする。もっと、お気に入りの場所、大好きな場所は。
マグナは目を伏せ、少し考える。
「何を考え込んでいるんだ。そんな難しい質問じゃないだろう。そんなに考え込むとまた頭が痛くなるぞ」
目線を上げると、のぞき込むネスティの顔が目の前にあった。ネスティの黒い瞳が優しく笑っていた。
そう、一番好きな場所。あまりにも当たり前すぎて、自然なことで意識しなかった。でも、なくなってしまうことは、耐えられない。 それは、ネスのいるところ。
「一番お気に入りの場所は……内緒だよ」
マグナは満面に笑みを浮かべた。