223:仕返し[マグ+ネス]
オケラ、ダンゴムシ、カマキリ、クモ……と名がわかっている虫の名を一つ一つ声に出して言ってみる。
ネスティは「君はバカか」という意味を露骨に含ませ、ふぅーと息を吐き、のぞき込んでいた紙袋から顔を上げた。
「で、マグナ……こんなものを持ち込んでどうするつもりだったんだい?」
マグナは口を尖らす。
「なんとなく」
「なんとなくはないだろう。そもそも、派閥ににこんなもの持ち込んでいいわけないだろう。何をたくらんでいた?」
「別に」
「悪さをしようと考えていたんだろう? いたずらか?」
「違うよ」
「じゃあ、ぼくが言ってやろう。この沢山の普通の人間……特に女性がいきなりこれを見せられれば悲鳴を上げるだろう。君は、虫を紙袋に入れて、特定の誰かにねらいを定め、その誰かに嫌がらせをしていようとしていた。そうだろう?」
マグナは目をふいと反らし、そのまま黙り込んだ。こういった時のマグナは嘘をつけない。
ネスティはなだめるようにマグナの肩に手をおいた。
「君が意味もなく誰かに嫌がらせをしたりするやつじゃないってこと僕にはわかっている。何があった?」
マグナは顔を上げ、唇を噛んだ。
「だって……、あいつらに仕返しをしたかったんだ」
マグナは、年上の女性召喚師がサモナイ石を落とすのを親切心から拾った。マグナがサモナイ石を彼女に渡そうとするよりはやく、その女性召喚師は石をマグナがネコババしようとしたと決めつけたという。
――所詮成り上がりモノは根性が卑しくて嫌よね。
聞いてネスティは呆れた。
「まったく、だからといってそんな幼稚な手段をとろうとするなんて。仕返しにもなっていないじゃないか。君の立場がますます悪くなるってなぜわからない?」
「でも、ネスのことだっ……」
と、言いかけてマグナはしまったという表情を浮かべた。
「僕のことがどうしたって?」
マグナはうつむいて唇を噛んだ。どうやら、ネスティには黙っていたかったらしい。
「もう、そこまで言いかけてしまったんだ。ちゃんと話せよ」
マグナは少し考えてから、口を開いた。
「ネスのこと、ラウル師範の養子になっているけれど、所詮どこの馬の骨だかわからないって……」
消え入りそうな語尾。
その程度のことで、くだらないというか、やりかたが頭悪すぎるとネスティは思う。
「なあ、マグナ。そいつらの言っていることは、紛れもなく事実なんだ。君は成り上がり者で、僕は正当な召喚師の血をひくわけでもない、ただの養子だ。この現実はどう逆立ちをしようが変わらない」
マグナは大きな瞳をきっと見開き、ネスティを睨んだ。
「だって、だからといって……」
「まあ、落ち着けよ。成り上がりが立派な召喚師になれない理屈はないんだ。僕たちが立派な召喚師になればいい。だから、虫などを使った姑息な手で仕返しをしようなんてもう考えるなよ」
「そうだね、ネス。ごめんよ」
マグナは、顔を上げ明るい表情でにっこりと笑った。単純なやつだけど、この前向きさと素直さがマグナの良いところだ。
「さて、それがわかったのなら、さっさとレポートを片づけぞ」
「え? ネスなんで知っているの?」
「そのくらい、すぐにわかるさ」
「まだ、こんなに明るいし、後少しのんびりしていこうよ」
「駄目だ、レポートの後は復習をしないと君は授業についていけないだろう」
ネスティはマグナの手を掴つかみ、そのままずるずると自習室へと引きずっていった。