219:リセット[マグ*ネス]
最近マグナの様子がおかしい。
何故か、ネスティの背中が気になるらしい。背後からじろじろと見ている。下から斜め横から上からと、色々な角度から何かを探そうとしているようだった。いきなり、うなじにかかった後れ毛をかき上げてみたりもした。おそらく本人はさりげなさを装っているつもりだ。誰から見ても怪しすぎるのに、こっちに悟られているとはまったく気がついていない。
何かまたくだらないいたずらでも思いついたのだろう。大したことないとは思うが、一応問いつめてみようとネスティは決めた。マグナは嘘をつくのが下手だ。追求されれば必ず白状する。
「僕の首のうしろに何かついているのかい?」
「え? どうして?」
目を丸く見開き、上擦った声。動揺していることが見え見えだ。
「いや、最近君は僕の首の後ろあたりをさかんに気にしているじゃないか」
「そ、そんなことないよ、ネス。気のせいだって」
「気のせい? 君がいつどんな様子で、僕の後ろにまわってじろじろと何かを探していたか、説明してやろうか? 何月何日何時何分何秒にまで。で、君は何をしようとしてそんなことをしたのか、一つ一つ説明してくれるんだろうね」
融機人の記憶を侮れないことをマグナは理解している。観念したようにうつむいた。
「ごめん、ネス。悪気はなかったんだけど」
「で、君は何を探していたのかい?」
「あの……リセットボタン」
ネスティは絶句した。確かに機械にはリセットボタンがついていることが多い。ライザーのような機界の召喚獣にもついていたりする。調子が悪くなった時のメンテナンス時に、リセットボタンを押しては確認する。なんらかの外因で制御できなくなった時にも有効だ。
が、融機人である自分にそんなものついているわけないのに。
「僕にはリセットボタンなどない。たとえあったとしても、他人の目にさらすなんて不用心なことするわけないだろう。誰かに何かを吹き込まれたのか?」
「ネスに一時間説教食らっていたと、皆に愚痴ったら『暴走した時には首の後ろのリセットボタンを押せばいい』って、レナードさんに言われて」
ネスティの眉がぴっと上がった。
「君に説教するのは、理由があるんだ。暴走してのことではない。それを君は……」
「ご、ごめんネス」
その後ネスティの説教は一時間近く続いた。
「そんなことをマグナが?」
レナードは煙草に火を移しながら、目を丸くした。ネスティはため息をついた。
「変なこと吹き込まないでください。僕が融機人だからと言って……」
「あ、わりぃ。あれは冗談だったんだよ。しかも、おまえさんが融機人だから出てきた冗談ではなくて、融機人だと知らなくても同じ冗談を言っていたさ。まさか、マグナが真に受けるとは思わなかった。これから気をつけるな。すまなかった」
「いえ、まったくリセットするなど人をなんだと思っているのか」
「それは、おまえさんの勘違いさ。マグナは説教をやめさたくて、リセットボタンを探していたと言ったのか?」
「いえ、そこまで追求するまでいかなかったけれど、それ以外にどのような理由が?」
「たぶん、心配だったのさ」
「心配って?」
「だから、誰にでも押せるようなところにリセットボタンがあるとしたら、心配だろう。リセットボタンの話をした後に、血相を変えて、飛び出していったからな。あん時はよくわからなかったけどよ」
ネスティは額に手のひらを当て、笑い出した。
「バカすぎる。バカすぎて頭痛がする」
「というわけで、おまえさんを思ってのことだ。許してやりな」
レナードはそういいながら、ネスティの背中をぽんと叩いて豪快に笑った。