203:イーーーッ!![マグ*ネス]
「おい、マグナ」
ネスティが掴んだ手首を振り解いて、マグナは走り出す。
門の側でぴたりと止まり振り返った。
「イーーーッだ!」
「なんだ、その態度は。待てマグナ」
何が「イーーーッだ」だ。そんな悪態、五、六歳くらいまでに卒業しておいて欲しいものだとネスティは思う。
そりゃ、誰だって嫌なことはあるし、やるべきことの優先事項はあって当然だ、だが、それはきちんと論理立てて説明すべきではないかと、いや説明してあたりまえいのことだとネスティは考える。
それを、言葉として意味のないただ感情を表すだけの言葉、『イーーーッ』という言葉――といえるのかどうか甚だ疑問だが――で片づけるのはネスティには理解できない。
それだけではない、「ベーーーッだ」とかいうのもあったな。
この二つはどう違うのか、どう使い分けるのかわからなかったけれど、言葉そのものには意味は無いのだ。
それでも、放置すればラウル師範に迷惑がかかる。ネスティは探しに行くことにした。
派閥を出ようとすると、上級生に声をかけられた。
かなりの家柄の一族出身だったと記憶している。
「ネスティ。おまえんとこの弟弟子だがもう少し監視して自分の分をわきまえるよう教育しておけよ」
「マグナがどうかしたんですか?」
「成り上がりは成り上がりらしくしておけよということさ。それを丁寧に教えようとした上級生に向かって砂をぶつけやがった」
ネスティはむっとする。
「成り上がりらしくって、意味がわかりませんが。どういうことを成り上がりらしいと言うかきちんと説明してくれませんか?」
「だから、成り上がりはそれなりの家柄の召喚師に対しては尊敬の念を持って敬えってことさ」
そういうことかと、ネスティはむっとする。
「申し訳ありませんでした。確かにそれなりに実績と実力のある召喚師に対して尊敬の念を抱くのは当然です。が、成り上がりか由緒ある家出身の召喚師を無条件に敬えというのは、派閥憲章にあった記憶がありませんでした。僕の勉強不足でしたね、調べた上マグナにもきちんと言い聞かせておきます」
ネスティは深々と頭を下げ、その召喚師に背中を向けた。
胸中で、「ふん!」というやはり意味のない言葉の悪態をつきながら。