199:伝説の時代[マグ*ネス]
封印の森は暗い。
もっとも、避けなくてはいけなかった禁忌の森。伝わる伝説。
自分もマグナも運命から逃れることはできないのかもしれない。
伝説は事実を語り伝えたものという建前がある。
リィンバウムに攻めてきた悪魔の軍勢と戦った慈愛に満ちた天使の伝説。ミニスが目を輝かせて語るように、清く美しい天使の話は童話として子ども達に与えられる絵本にもなっている。
確かに元となった事実はある。しかし、語り継ぐ人の望み、人に押しつけたい教訓、主観でしかない倫理、あるいは欲望によって多くの人が納得できる物語へと落ち着いていく。いや、ねじ曲げられると言うべきか。
正確に先祖の記憶を受け継いでしまう融機人からすれば羨ましいの一言だ。都合の良く捏造された物語を鵜呑みにできれば苦しまないで済む。できることといえば、ただ真実の物語から目を逸らすだけなのだ。
「こうやって並んで歩いているとさ、旅の最初の頃を思い出すよな」
何時の間にマグナはネスティの隣を歩いていた。
「……」
返す言葉は見つからなかった。
止めなくてはいけない。どのような手を使っても。そうしなくてはいけなかったのだ。
それなのに、押し切られるようにこの地に足を踏み入れてしまった。
「まだ怒ってるのか? ネスの意見を聞かないでここまで強引に来てしまったことを」
「……べつに」
「何隠し事しているんだ? この森のことでさ」
「どうして、そう思う?」
「昨日のネスの反対ぶり いつもと違ってた気がしたから、かな?」
確かに、自分は何の根拠を示すこともなく一方的に反対した。いつもなら、マグナにも理解できるよう論理立ててきちんと説明しているのにだ。
「そうか」
「言えないようなことなのか、それって?」
問いつめる勢いにネスティは俯いた。
「……」
「なら、聞かないよ。俺もネスの忠告を無視してここに来たんだしおあいこだからな」
マグナは少しふてくされたように言った。
「いつか、いつかきっと話す 君に話さなくてはならないことなんだ。だけど、今の君にはまだ話せないことだ 今は、まだ。許してくれ」
「ネス?」
マグナは訝しげにネスティを見た。
それっきり二人の会話は途切れた。それぞれ平行線の思いを胸に、二人並んで森の奥へと歩を進めるしかなかった。