193: 童話[マグ*ネス]
「その童話知っている。小さい頃絵本で読んだわ」
「あ、アメルも読んだことあるのね」
ミニスがポンと手を叩く。
「ええ、おじいさんに読んでもらったわ」
「それ有名だからよく覚えている」
と、モーリン。そこへいきなりフォルテが会話に加わった。
「あ、俺も乳母に読んでもらった記憶があるな」
「乳母?」
皆の背戦が一斉にフォルテに集中した。
――もしかして、フォルテってスゴイおぼっちゃん?
童話談義で盛り上がる仲間を横目で見ながらマグナは言った。
「楽しそうだね。童話を読んでもらっているんだね」
「ああ、確かに読んでもらうことは多いかもな」
「ふうん、じゃあ俺には関係ない話だね。親いなかったし。ネスはラウル師範に読んでもらったの?」
「少しだけだがな」
「羨ましいな」
養父であるラウルはネスティに絵本をくれたし、寝る前に童話を読んでくれたことも少しはある。ある日、ラウルが夜遅く童話を一冊ずつ読んでため息をついているのを見てしまった。そのため息の理由が知りたくて、ネスティはラウルが読んでいてネスティに渡そうとしなかった本をこっそり盗み読みをした。
童話は子どもに優しさや思いやりや正義を教えたいという大人の思いから書かれている。様々な国に伝わる伝承を子供向けに易しくアレンジしたものがほとんどだった。
しかし、対比として優しさを描こうとすれば意地悪なものが。正義を描こうとすれば悪が必要だったのだろう。その悪の役割は異世界のもの短絡的に押しつけるものが多かったのだ。
そんな養父の優しさは嬉しかったけれど、申し訳なく思った。それから、ほどなくして「もう、本は自分で選ぶし自分で読むから」とラウルに伝えた。
それでも、低く易しい声で本を読んでくれた養父のくれた温もりはかけがいのないものだったのだと今更ながら気づいた。
そういえば……とネスティは思う。
マグナが引き取られてきたときは、もう童話に喜ぶ年ではない。ましてや読み聞かせる暇があれば、普通に読み書きを教えることを考え勉強の本ばかりを渡していた。
「なあ、マグナ。今回の件が終わったら、僕が君の気が済むまで夜寝る前に絵本を読んでやるよ」
「え? ネスが、俺に? いいよ、そんなの俺だって字くらい読めるし」
「遠慮するな。羨ましいと言っていただろう」
「そ、そりゃ……。でも、俺そんな子どもじゃないんだから、いくらなんでもみっともないし」
「そうか、そりゃ残念だな。でも、気が変わったら言ってくれ」
「気持ちだけだけで嬉しいよ。ありがとうネス」
にっこり笑うマグナにネスティはいつもの皮肉ではなくて、微笑を返した。