156:雪[マグ*ネス]
崖城都市デグレアの城門前。
獅子将軍とうたわれた元デグレアの将軍アグラバインは感慨深げに、かつて自分が守った国を見つめていた。
「まさか、この目でまた故郷の街を見ることになるとはな……」
「この街で、おじいさんは暮らしていたのね」
アメルはアグラバインの手にそっと自分の手のひらを重ねた。
「くしゅん……」
振り返ればミニスだ。
「な、なんか……すっごく寒くないっ?」
「ど、ど、ど、ど……同感、かも……っ」
ルウが同意する。
二人の格好を見てネスティは嘆息した。
ミニスは生足を出したまま。いや、ミニスはそれでも長袖だからまだマシだ。
ルウとモーリンなどへそまで出している。
ストラがあるから平気だと豪語するモーリンは確かに震えていないが、もう少し気を付けておくべきだったかと後悔する。
デグレアは白い雪で覆われつつあるのだ。
「君の目論見どおり ここまでは、うまく来ることができたがここから先は どうするつもりだ?」
ネスティはマグナに気になっていたことを訊いた。
「警備の手薄な場所を探して、そこから中に入り込むよ」
マグナの答えに皆頷いた。確かにそうだ。
「どっちにしろ、こうも大勢で行くわけにはいかねだろ?」
というフォルテにマグナはにっこり笑う。
「わかってる……みんなは、ここで待っててくれればいい。行くのは、シオンさんと俺だけで充分だ」
「なんだって!?」
ネスティはマグナに詰め寄った。
「やはり、そのつもりでしたか」
予測していたらしいシノビであるシオンは穏やかに微笑した。
「言い出したのは俺だからね」
「だからって、君は素人じゃないか!?」
たった二人で行かせるわけにはいかない。
いや、行かせたくない。
ネスティはなんとか止める理由、あるいは自分も同行する方法を見つけようと思考を巡らせた。
しかし、仲間達は次々に同意する。
気をつけて、がんばれよ、大丈夫、きっとうまくいく……とかける言葉はマグナの無謀な計画を後押しするもの。
皆心配ではないのかと、ネスティは仲間一人一人の顔を確認するように見ていった。
彼らの表情はマグナに対して絶対的な信頼を寄せているものだった。
自分だけがマグナをいつまでも頼りない子どもだと思いこんでいたのか。
ネスティはマグナから目を逸らし俯いた。
肩を叩かれ顔を上げる。マグナが困ったように笑っていた。
「心配するなよ。ネスだけ俺が信じられないの?」
ネスティは小さく笑んで、首を横に振った。そして、顔を上げシオンの前に歩み寄った。
「シオンさん……。このお調子者をどうかよろしくお願いします」
「かしこりました。では、行きましょうか」
「気をつけてな」
「うん!」
元気に返事をしマグナはネスティに背中を向ける。
降りしきる白い雪の中に霞み遠ざかる弟弟子の背中は、知らぬ間にネスティの記憶にあるそれよりも一回り大きくなっていた。