154:うれしい[マグ*ネス]
「ねえ、ネス。あそこ、何かやっている」
「おい、まて。いきなり走るな」
ネスティの制止もきかず、マグナはその人だかりに向かって走り出していた。
やれやれ……とネスティはため息を付く。
あの弟弟子はいったいいくつだ? いつまでたっても子どものようだ。
はぐれなければ別に構わないだろうと、ネスティはマグナが後をゆっくりとした足取りで追った。
ファナンの年に一度の祭りは賑やかだ。
たまには気晴らしもいいだろうと、マグナとネスティは祭りの夜に繰り出した。
路地には出店が並び、怪しげな装備品で人寄せをするゲームや、煙と共に充満するおいしそうな匂いにふらふらと釣られてしまう。
マグナは特にたこ焼き、焼きそば、焼きイカ、杏飴等、シルターン由来の食べ物が好きなようだ。
さっきから、ずっと食べっぱなしだ。
やっと追いついたネスティはマグナの肩を叩いた。
「なんだ、射的か?」
「うん、色々景品が貰えるんだって」
「やりたいのか?」
「ん……いい。景品に興味ないし」
そう言いながら、マグナは射的にくるりと背を向けた。
ネスティは気になって並んだ景品を確認する。景品の中に生きている小さなウサギとヒヨコが混ざっていた。
もしも、それを当ててしまったとしてもどうしようもない。あてのない旅を続ける二人に飼う方法は無いのだ。
「そうか。残念だな。君の射的はなかなか良い腕をしていたのに」
「そうだね。でも、いらないものを貰っても仕方ないし」
二人で路地を歩いて行くと、今度は別のゲームを見つけ、またもやマグナは走り出していた。
やれやれ……と、また後ろからゆっくりとついていく、ネスティにマグナは振り向いた。
「ネス、ネス……はやくおいでよ」
「今度は何なんだ?」
「景品は何と、全部食べ物だって。それもおいしそうなお菓子だよ」
マグナは満面に笑みを浮かべ手を振った。
そのうれしそうな笑顔。
もしかして自分だけに向けられるのではないかと錯覚したくなるような笑顔にしばし見とれる。
そんなことを一瞬でも考えた自分に苦笑し、ネスティはその笑顔に引っ張られるように走り出していた。
ファナンの祭りって何祭りっていいましたっけ? 忘れているよ(笑)