006:卒業[マグネス]
マグナは、一週間後に迫った卒業試験のための説明を受け、一通り必要書類を受け取ると立ち上がりドアの前でもう一度教官に礼をした。教官の説明は難しい言葉が多く、何がなんだかたぶん半分くらいは理解できなかったと思う。
ドアの外には腕を組んだネスティが立っていた。
「あれ? ネス、どうしたの?」
「どうしたのではないだろう。君が粗相をしなかった心配だっただけだ」
憮然として答えるネスティにマグナは困ったように笑った。
「いくらなんでも、俺だってそこまでバカじゃないよ」
「バカでなければ、今まで何をこんなに手間取っていたんだ。召喚師の卒業試験を受けるまでに時間がかかりすぎだ」
「うん、面目ない」
マグナは素直に認めた。
「まあ、それでもなんとか卒業試験に持ち込めたのだからいいけどな」
「うん」
そう言ったきり、マグナはうつむいて考え込む。
「どうしたんだ?」
「あ、うん。今度の試験に受かったら、俺、一人前の召喚師ってことになるんだよな」
「一人前かどうかはあやしいとしても、そうだな」
「召喚師って、アレだろ? 街の人からも召喚師ってだけで尊敬されたりする」
「まあな。尊敬に値しないような召喚師も多いのだから、その風潮はどうかと思うが」
「練習とか、訓練とかいうのではなくて、実際に召喚術を使っての任務をこなしていかなくてはいけないってことだよな。一人で」
「あたりまえだろう」
「俺につとまるのかなぁ」
「楽観的な君らしくない心配事だな。任務は、その召喚師の技量に合ったものしか与えられないから心配するな」
「うん」
それでも、不安げに下を向くマグナの肩にネスティは手をのせた。
「ラウル師範もついている。それに、僕だって兄弟子である責任上、君がしくじらないように監視してやるから、心配するな」
マグナははっとして顔を上げた。
ネスティの目が、「僕がついているから」と語っている。
そうだ、一人前になったらこのたった一人ですべてをこなさなくてはいけないような気がしていた。この兄弟子はもう自分をかまってくれない。それがただ、不安だったのだ.
マグナはほっとして「頼りにしているから」と、その日初めての笑顔をネスティに見せた。