149:兄弟[マグ*ネス/フォル*ケイ]
いきなり、ドアを開けて転げ込んできたマグナにフォルテは目を丸くする。
「どうしたんだ? いったい」
「ちょっとかくまって」
ケイナがお見通しよと言いたげに笑った。
「また、ネスティのお説教から逃げ回っているの?」
「うん」
マグナは隠れるところはないかときょろきょろしている。
その時ドアをノックする音が聞こえ、マグナは慌ててクローゼットの中に潜り込んだ。
笑いを噛み殺しながらフォルテがドアを開ける。
「どうした? ネスティ」
「あ、夜分お騒がせします。マグナを見かけなかったかと思って」
ネスティの口調は礼儀正しい。が、マグナと違ってどこか余所余所しい。
「いや、見ていないけど、どうしたんだ?」
「あ、いえ……たいしたことではないんですが。もし見かけたら、もう怒っていないから部屋へ戻って来いと伝えてください」
「わかった」
ドアが締まるとマグナはクローゼットから出てきた。
「もう、なにをやっているのよ」
ケイナが呆れたといった顔で茶をマグナの前へ置いた。
「今回の旅はさ、表向きは『見聞を広げるための旅』ということになっているんだ。知っているだろう? で、一応蒼の派閥にレポートは提出しなくてはいけないわけで、記録は細かく書いておかないと忘れるだろうというのがネスティの考えなんだ」
「それを書いていなかったのね」
「うん。それがバレて。まあ書かなかった俺が悪いけど……これから説教がはじまるなと思ったら逃げて来ちゃった」
「まあな、ネスティはちゃらんぽらんなのはいかにも嫌いそうだよな」
「フォルテ……あなたも嫌われそうよね」
ケイナが横から茶々をいれる。
「あはは。それにしても、あんなに嫌味を言ったりくどくどと説教したりしなくてもいいと思うんだけどな。俺、ネス以外からそんなにしつこく小言言われたりしないのに」
口を尖らせてマグナは、茶をすすった。
フォルテもずずずと茶をすする。
「まあ、それはお互い様だろう。ネスティがおまえ以外にそんな小言を言うのを見たことあるか?」
「あ……俺だけ?」
「ああ。勘違いしないように言っておくが、それはマグナのデキが他に比べて悪いからじゃないぞ。おまえが特別だからだ」
ケイナもフォルテの意見に同意した。
「そうね、たぶん二人の距離感が他にくらべて極端に近いから、つい口うるさくなったりするのよ。放っておけないというか。それだけ他の人とは違う存在なのね」
「違う存在?」
「そうよ、なんていったって兄弟弟子なんですもの」
マグナは黙って二人の顔を交互に見た。
ああ、そうかそういうことだったのだ。
「さて、そろそろ部屋へ戻ってやれ。ネスティが心配するぞ」
そう促しフォルテはマグナをドアの前まで送っていった。
ドアを開けてフォルテ言う。
「なあ、マグナ……ケイナって口うるさいだろう? 細かいところに口を出すし、すぐに怒るし。でも、それはケイナが俺のことを色々気にかけていて、俺は特別の存在なんだ……とうぬぼれたりもできるわけだ」
少し照れ臭そうに頬を人差し指でぼりぼり掻いている。
マグナはそんなフォルテに吹き出しそうになる。
「ありがとう。ケイナにも礼を言っておいて」
マグナは二人に礼を告げてネスティの待つ部屋へと軽い足取りで戻っていった。