139:春[マグ*ネス]
春眠暁を覚えず――などとは、いったい誰が言ったのか。
導きの庭園のベンチ。そこでマグナは大きく伸びをする。
「やっとお目覚めかい?」
――え?
耳元で聞こえた声に首をまわせば、兄弟子の冷ややかな目が間近にあった。
「ネ、ネス……いつからいたの?」
「三十分ほど前から」
不機嫌そうな声に、マグナはへへへ……と笑う。
「だったら起こしてくれればよかったのに」
「熟睡している君は起こしても起きないだろう。それに……」
そこまで言いかけて、ネスティは口ごもった。
「どうしたの? ネス」
「いや、なんでもない。帰るぞ」
食事を終えると、また眠気に襲われた。
さっさと自室に戻り、ベッドに座って定まらない視線を宙に泳がしていた。
続けてネスティも部屋に戻ってきて、マグナの隣に腰をかけた。
「また眠いのか?」
「うん。俺、最近眠くて眠くて仕方ない。どっか病気かなぁ。今だって……もう駄目」
マグナはとろんとした目をネスティに向け言った。
「君は昔から授業中とか、宿題に追われているときとか、いつも眠そうだし、導きの庭園で居眠りするのは毎度のことだったじゃないか。今更何を言っているんだ?」
「違うよ」
不意にマグナはネスティの首に腕をまわし、肩口に顔を埋めた。
「違うってどういうことだ?」
それには答えずマグナは体重をかけ、ネスティをベッドに押し倒した。そして唇を重ねてきた。でも、一度軽く口づけただけで、自分も兄弟子と並んでごろりと転がった。
ネスティの耳元に欠伸混じりのマグナの声が響いた。
「だから、これが限界ってこと。前はキスだけじゃ我慢できなかったし、眠気に負けることはなかったのに……俺……やっぱ病気か……なぁ……」
「おい、マグナ!」
ネスティが呼びかけたときには、すーすー気持ちよさそうな寝息をたてていて、もう反応はなかった。
まったく、仕方ないなぁとネスティはため息を付く。
春であるだけではない。ここのところ、結構ハードな日程で動いていた。
少し余裕ができた今、眠いのはマグナだけではない。
今日、ネスティは導きの庭園のベンチでマグナを見つけたとき、そのあまりにも気持ちよさそうなマグナの寝顔に声をかけてよいものか、悩んだ。マグナの戦いは最近特に肉体を酷使するようになっている。溜まっていた疲れがどっと出てきているのだと思うと起こすに起こせなかった。
悩んでいるうちにネスティも猛烈な眠気に襲われ、不覚にもうとうとしてしまったのだ。
マグナが起きる直前に目を覚ますことができていたから、なんとか兄弟子としての面目を保てたようなものだ。
少しの休息だ。
また、じきに辛い戦いがはじまるのだ。
今は身体を休ませることに専念しよう。
ネスティはそっとマグナに口づけ、目を閉じた。