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076花[幸*花]
花梨から淡萌黄の文が届いた。
「あのかたは、不思議なほど私の好みをご存じだ」
文に添えられている花に幸鷹は目を細めた。
萩……。
赤みがかった薄紫の可憐な小花。
そっと持ち上がると、淡萌黄の紙の上でかさりと紙が鳴った。
初めての出会いは石原の里だった。
宮様の遣いで、翡翠と石原の里で会った時だった。
不思議な雰囲気を持った少女だった。
彼女は異世界から龍神の神子として召喚され、この世界にきたのだということを理解したのはずっと後のこと。
赤みがかった短い髪。京の女性でないことは間違いない。
大きな瞳が戸惑ったように見つめてきた。
手をさしのべずにはいられなかった。
文と花を持ったまま、庭へ出る。
夜空には明るい満月。
幸鷹は月を仰いでから、文と花にそっと唇を寄せ呟いた。
「花梨殿……。明日にはお会いできます」
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