038:デジャヴ[幸*花]
龍神の神子、花梨。
彼女がこちらの世界に召喚され、神子としての責務を一生懸命果たそうとしている。
それは、もう健気なほど。
本来自分の住む世界ではないこの京のために。
龍神の神子として、この京を救わないと元の世界に戻れない。
確かに、一生懸命になるのは自分自身のためであるのだろう。だが、純粋のこの京の人たちの幸せを祈っていることも伝わってくる。
そして、幸鷹は彼女が京に召喚されて、最初に出会ったこの世界の人間だった。
幸鷹が女性に対し、これほどまでに好ましい印象を持てたことは無かった。
傍にいることが自然でなによりも楽なのだ。
彼女の話はとにかく興味深く会話が弾む。
幸鷹は常日頃、周囲との齟齬感に戸惑うことが多かった。
彼が当たり前のこと、大前提として認識していることがまったく通じない。
逆に、幸鷹自身も周りのものたちが「これが常識である」といった態度で彼に接する多くの事柄に疑問を持つことがほとんどだった。
その場合、幸鷹自身が根気よく周りを論するか、彼が譲歩するかのどちらかだ。
今のところ、ほとんどが後者になってしまう。
子どものころは何も感じなかった。
幸鷹の記憶では、元服後、一人前の男として大人たちと接するようになってから、それを強く意識し始めている。
紫姫の館の庭。
綺麗に手入れがされた庭は。今の季節は紅葉が美しい。
そこで、幸鷹と花梨は語り合う。
もう何回目だろうか。
こうして二人きりで語り合うのは。
花梨は龍神の神子として、幸鷹は検非違使別当として、忙しい毎日を送っていた。
そんな中、少しでも時間を見つけては、彼女を誘い出す。
「神子殿の世界の話を今日もお聞かせいただけますか?」
花梨は、くすくす笑う。
「本当に幸鷹さんは私の世界に興味がおありなんですね」
「お話を伺っていると、とても楽しくて興味深いことばかりです。神子殿の世界が懐かしいという気すらします。きっと神子殿のお話がとてもお上手だからなのでしょう」
「それは、幸鷹さんだからのように思いますよ。他の八葉のかたも、私の世界の話を聞きたがるんです。でも、なかなか通じなくて。根本的に理解してもらうのが難しいんです。たぶん、説明だけで現物を見ることが出来ないから、ピンとこないんですよね、きっと。写真でもあえばよかったんですけど」
幸鷹は目を丸く見開いた。
「私は……何故でしょうか。神子殿の世界の風景が目の前にくっきりと浮かびます。不思議ですね。知らないはずなのに、『ああ、あれのことですね』と勝手に納得しています」
「それは、デジャヴですね」
「ああ、本当にデジャヴですね」
幸鷹はそう口にしてから不思議に思う。
何故花梨の世界のこの訊いたこともない言葉がピンとくるのだろう。
「幸鷹さん?」
呼ばれて幸鷹は花梨へと視線を落とす。少女の大きな瞳がじっと見上げていた。
「いつか、いつか神子殿の世界をこの目で見てみたいと思います。神子殿と二人で」
「ええ、幸鷹さん、いつか一緒に」
ふわりと微笑む花梨に幸鷹は一瞬見とれ、微笑を返して頷いた。
遙時2の主人公の名前は、「井上トロ」とつけてしまっています。でも、トロじゃさすがにあれですので、デフォルト設定の名前に。私の遙時2のトゥルーEDは、記憶が戻った幸鷹と花梨が現代に戻り、他は京とどまるなんだけどな。