018:自慢のコレクション[翡*幸]
――気に入ったものは、売らずに手元に置いておくのだよ。滅多に無いが。
目にも鮮やかな色彩の糸で織られた敷物、美しい光沢の陶器、そして、書籍や経典までが、無造作に整理されるでもなく置かれている。
おそらくは、外国の船からの強奪品。
数はさほど多くはない。
伊予の海賊長である翡翠の海辺にある別邸。
そこに幸鷹はいた。
聞こえてくる音は、岩場を穏やかに打ち付ける波の音のみ。静寂の世界。
伊予の国守となり、最初に掲げた改革が「海賊の一掃」だった。
だが、目代たちには失笑された。
彼らが幸鷹に求めたのは、代々のそれと同じお飾りの国守だったのだ。
そもそも、このように年若い、摂関家の嫡子であるが故に国守になったのだろう少年に何ができるというのだと。
国衙官人誰からも相手にされず行き詰まり、自信を失った。
そんな幸鷹の背中を押したのが、当の海賊の首領である翡翠だった。
「良い策だ」と。
幸鷹は後ろを振り返る。
垂れ絹の隙間に冴え冴えとした冷たい月光に照らされた翡翠の穏やかな寝顔が見える。
端正な面立ち。貴族と紹介されても十分通用する。
さらに、深い教養と優雅な風情。
これだけ高い能力を何故、真っ当なこと、民のために生かそうとしないのか。
海賊を陸〈おか〉に上げる。生まれ育った土地へ戻り、法と秩序の下で新しい生活を営んでもらう。
そんな、自分の策に協力しながら、当の翡翠は決して海賊稼業をやめようとはしない
今日も、説得に来て失敗した。
何を考えているかわからない。まったく掴みどころの無い男だ。
もう一度、翡翠の収集品に目を戻す。ふと気になって銅製の鏡を手に取った。
裏に浮き彫りで描かれている模様、これは。
奇妙な感覚にとらわれる。
多くの、人、人、人。
喧騒の中、見えない硝子越しにただ見つめていた。
耳鳴りが。
幸鷹はきつく目を閉じた。
「二十八宿だよ。空の星を描いたものだ」
突然、背後から声をかけられて、幸鷹は飛び上がるほど驚いた。
「翡翠、起きていたのか」
肩に手がのせられ、覆い被さるような体勢で肩越しに鏡を覗き込まれた。長い髪が幸鷹の首筋にさらりと流れ落ちた。
もう片方の腕を伸ばし、繊細な指先が浮き彫りの模様をなぞった。
「ここからここまでが、東方七宿青竜 。そして、北方七宿玄武、西方七宿白虎、南方七宿朱雀。四神はご存じだろう? 国守殿は」
「もちろんです」
鏡に視線を向けたまま、憮然とした声で答える。
「宇宙の理さ」
宇宙。
青い球体が脳裏に浮かんだ。
伊予の海と同じ色、紺碧の球体。
――地球
なんだ、この記憶は。
ぐらりと意識が遠のいた。
「幸鷹」
呼ばれて、うっすら目を開く。
間近に翡翠の険しい顔があった。
「翡翠? 私はいったい」
「急に倒れかかったのだよ。私の腕の中にね」
気が付けば翡翠の腕の中にすっぽり収まっていた。
慌てて腕から抜け出そうと身じろぐが翡翠は拘束する力を緩めない。
「どこか具合でも悪いのかな。今までにこんなことは?」
「いいえ、はじめてです。たぶん疲れていたのでしょう」そして、きつく翡翠を睨んで、憎まれ口を叩いてみる。「ちっとも説得に応じないどこかの海賊のおかげで」
そんな幸鷹の髪を優しく指で梳きながら、翡翠はくすくすと楽しそうに笑った。
「そう、あまり無理をしないように、かわいい人」
その言葉にむっとする。幸鷹は思わず怒鳴った。
「調子に乗るのもいいかげんになさい。お前のような海賊に、かわいいなどと……」
「少し黙ってなさい」と押しつけられた唇に言葉が途切れる。
角度を変えて、何度も触れるだけの口づけを繰り返す。唇を離した翡翠は目線で背後にある臥所を指した。
ゆっくりと抱き上げられたとき、首に腕をまわしていた。
いいかげんにしろは自分だと、幸鷹は胸中で苦笑しつつ翡翠の肩に顔を押しつけた。
はるとき2クリア記念に、翡幸です。とはいえ、これ幸鷹現代EDのみクリアでしかも、攻略本も設定資料集的なものも、ネットで情報も集めていませんので、変なトコ多々あるかも。はるとき1でも地白虎×天白虎ではあったのですが、2の白虎たちのほうが、好きです。いや、1も好きだけどより妄想ネタが多いのが2……っていう気が。