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108:誰?[カイム+アンヘル]
紅きドラゴンは両翼を大きく広げ上昇気流に乗ると一気に空高く舞い上がった。
その姿はこの世界のどのような存在よりも優美であり邪悪だった。
背に灰色の雲の切れ間から覗く白い太陽を受け、地上に黒い不気味な影を落としながら。
憎悪、憤怒、そして狂気。
人間の裏切りにドラゴンは確かに怒っていた。
だが、どのような裏切りだったのか。
具体的な記憶は何もなかった。
ドラゴンは何かを切望していた。
だが、何を?
必死に誰かを求め、呼び続けていた。また求められ、呼ばれ続けていた。
ダレダ?
優雅に旋回しドラゴンは地上を見下ろしていた。ドラゴンが人の住む町を視界にとらえたその瞬間町は炎に包まれる。
業火に焼き尽くされる町。人々は逃げまどう時間も与えられず焼き殺される。
もうどれほどの数の人間がこの地から消えたのか。
世界中が焦土と化してしまうまでさほどの時間を必要としないだろう。
子どもが空を見上げた。
「何をしているの? はやく逃げないと」
母親は子どもの手を強く引っ張った。
先ほどから低い音が地響きのように大地を揺らしていた。
ぐぉー、ぐぉーーー。
ドラゴンの唸り声だった。
子どもは走りながらもう一度空を見上げた。
「泣いているよ……」
「何をバカなことを言っているの。あの邪悪なドラゴンが泣くわけないでしょう」
――我ハ何処ニイタ? 暗闇ノ中求メシ者は、誰ダ?
――我ヲ呼ブ者 カイム? カイム? 何処ニイル?
――我ガ半身ヨ。
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