142:チーム[レム+ゼネ+ティアナ]
王宮よりリューガ家で執務を行うことが多いうら若き女王ティアナは言った。
「私、今回のことで、知識では理解していたはずのことが、本当は何も理解できていなかったんだって……よくわかりました。貴族と平民の間の不信感は根強いのです。でも、必ず分かり合えます。私たちは同じロストールの国民として身分を越えて協力し合わないといけません。敬い合うことはできるはずです」
「陛下……随分と、大人になられた」
ティアナは、にっこりと笑う。
「おやめください。二人きりのときは、幼なじみです。ですから……」
レムオンは顔を上げた。
「そうだな。だが、陛下は陛下だ。あまりにも馴れ馴れしいと他の貴族の手前、問題がある」
ティアナは目を伏せた。
「レムオン様には本当に感謝しています。レムオン様が協力してくださったからこそ、ディンガルとの様々な協定がうまく締結しているといえます。あのかたも……レムオン様のように表だって協力してくださればいいのに」
あのかた……というのは、あの男、ゼネテスだ。
ゼネテスが何もやっていないわけではないことくらい、レムオンもティアナもよく理解している。しかし、影での協力では他の貴族への示しがつかないことも事実だった。
レムオンはリューガの変で大騒ぎした挙げ句、ダルケニスであることがバレ、一時はロストールの貴族社会から姿を消していた。人知れず、無限のソウルの持ち主やゼネテスとともに、闇の勢力と戦っていた。
他の仲間といえば、よくもまあここまで癖の強い連中を集めたものだという顔ぶれだった。
敵も味方もあったものではない。ロストール侵攻のに加わっていたディンガルの者たちもいた。
それを纏めていたのだから、あの無限のソウルの持ち主は大したものだ。
戦いが終わり、ディンガルとは和平協定が結ばれた。世界は平和に向かって一歩踏み出したのだろう。だが、両国とも戦争による国力の衰退、混乱、疲弊は免れたわkではない。特に、王と王妃を失ない、ディンガルの侵攻によって国土を傷つけられたロストールの被害は大きなものがあった。
まだまだ、混乱は続くだろう。
ロストールで自分を受け入れてくれるものは誰もいないだろう。
自分のやらかした罪の大きさに、レムオンは今度こそ姿を消すことを決心する。
それにいち早く気が付いたゼネテスは無限のソウルの持ち主と共に怒った。
「ロストールは今大混乱だ。この人手が足りないというのに消えるな。働け」
働け……は貴様だろうと内心毒づき、どうやって逃げようかと思案したが、他の仲間達も便乗し二人に同調する。
結局多勢に無勢。ひきずられるようにして、ロストールに足を踏み入れた。
「大変な戦いでしたね。ご無事でなによりです」
セバスチャンも異母弟のエストも、レムオンがダルケニスの血を引くことを知っているのに変わらぬ笑顔で迎え入れてくれた。
ここが、レムオンの家なのだからと。
もちろん、ダルケニスの貴族など認められるはずなどないと主張する輩も多かったが、ゼネテスに丸め込まれ新女王ティアナにぴしゃりと仕切られ皆黙った。
「ティアナについていてやれ。姫さんの側近はお前さんのような勤勉な男が務めるにふさわしい。お前さんは、この国にとって無くてはならない存在なのさ」
言われたときは、照れ臭く嬉しかった記憶がある。そう、それが唯一の贖罪だという以上に嬉しかったのだ。だから、できる限りのことをした。
はた……と気づく。
「ティアナ……今からスラムの酒場へ行ってくる」
「はい?」
そう、確かにスラムの酒場にあの男がいた。
飲んだくれて、楽しそうにスラムの常連達と盛り上がっている。
レルラ・ロントンの歌まで聞こえてくる。
何が勤勉な男が務めるにふさわしいだ。
もし、レムオンがいなければ、七竜家筆頭として今のレムオンの役割は当然ヤツが負わなければいけないことだった。そうならば、こうしてスラムの酒場に入り浸るなんて暇などあるはずはなかった。
ただ単にゼネテスは自分に七面倒くさい役柄を押しつけたというだけだったのだ。
腹の底から、なにかがこみ上げてくる。
あのやろー。
頬をひくつかせながら近づくレムオンにゼネテスは振り向いた。
――やっと気が付きやかがったか。
そう瞳が笑っていた。