<div class="boxp"> <p>その幼い男の子は、シグルドをまっすぐ見つめ「誰？」と訊いた。男の子の背中に隠れるようにしてもっと小さな女の子がシグルドを見つめていた。怯えたような目で。</p> <p class="i0">「シグルド・ハーコートと申します。若」</p> <p>相手をなるべく不安にさせないようにと、膝をついてその手を取れば、身を乗り出して「父上の？」と訊いてくる。</p> <p class="i0">「はい、ずっと前にあなたの父上にお仕えしていたのですよ。これからは、あなたが私の主人になります。バルトロメイ・ファティマ殿下」</p> <p class="i0">「そうなの。はじめまして……でいいのかな？」</p> <p>シグルドは苦笑した。</p> <p class="i0">「詳しいお話は後で。マルー様と一緒にここを脱出することが先決です」</p> </div> <div class="boxp"> <p>覚えていない？</p> <p>それは、当然のことだ。</p> <p>覚えているはずはない。</p> <p>シグルドがアヴェの宮殿から里帰りの途中に忽然と姿を消したとき――実際には人種見本サンプルとしてソラリスに拉致されていたのだが――この王子はまだ三歳にもなっていなかったのだ。</p> </div> <div class="boxp"> <p>拉致される前までは、ずっとこの小さな王子のそばにいた。</p> <p>王子にとってはいてあたりまえの存在だった。だから、視界からシグルドがいなくなれば、きょろきょろと不安げにその姿を探す。</p> <p>見つければ一生懸命走り寄ってきた。</p> <p>立ち止まり手を差しのばせば、小さな手でぎゅっと指を握ってくる。</p> <p>柔らかく温かい少し湿り気を帯びた手のひらの感触。</p> <p>顔を上げればそんな二人を微笑みながら見守る王と王妃の姿がテラスに見えた。</p> <p>王妃の目は、そろそろお茶にしましょうね。と、伝えてくる。</p> <p>空を見る。</p> <p>雲一つない澄み切った青。</p> <p>明るい陽光の下、梢を抜けた乾いた風が二人の髪をたなびかせていた。明るい陽光に金色の髪をキラキラと輝かせ、舌っ足らずに名を呼んだ。</p> <p class="i0">「シグ……」と。</p> </div> <div class="boxp"> <p class="i0">「シグルド……と呼べばいいの？」</p> <p>シグルドはにっこり笑う。</p> <p class="i0">「いえ、シグとお呼びください。若」</p> <p>そう言いながら、シグルドは二人の子どもをそっと抱き上げ、心の中でささやいた。</p> <p>――遅くなってしまいましたが、やっとあなたの……お二人の許へと還ってくることができました。……若。</p></div> <div><img src="http://xeno.s-kyanite.com/ds/dsw.cgi?p=n&&md=i&&pg=365003" alt="" width="1" height="1" /></div> <script src="http://www.google-analytics.com/urchin.js" type="text/javascript"></script> <script src="http://xeno.s-kyanite.com/js/google_ana.js" type="text/javascript"></script>