<div class="boxp"> <p>ユーゲントの食堂でコーヒーを飲みながら、ラムサスが言った。</p> <p class="i0">「おもちゃにするって、どういう意味だ?」</p> <p class="i0">「何、唐突なことを訊いているんですか」</p> <p class="i0">「昨晩のことだが、ある後輩の女性に泣かれたんだ。『私のことおもちゃにしたのね』ってな」</p> <p>ヒュウガはラムサスの方を振り返り言った。</p> <p class="i0">「誰です? その女性は」</p> <p class="i0">「相手のプライバシーの問題もあるから、言えん」</p> <p>まあ、それはそうだ。</p> <p class="i0">「で、何が知りたいんですか?」</p> <p class="i0">「だからだ、おれは彼女をおもちゃと勘違いしたことはない。普通に人間で後輩だと思っている。人体改造をかけて、おもちゃにしようなどという発想は無いし。というようなことを説明したら、延々と泣かれた……というか、最後には怒っていた」</p> <p>ヒュウガはさらにまじまじとラムサスの顔を見た。が、ふざけているわけではないらしい。</p> <p>たぶん、怒っていた……というよりも、呆れていたになりかねない。</p> <p>いや、日頃のカーラン・ラムサスの優秀さを考えれば、からかわれていると思われても仕方ない。</p> <p>本当のところは、いつものマジボケなんだろう。</p> <p>ヒュウガは嘆息した。</p> <p class="i0">「カール、この場合の『私のことをおもちゃにしたのね』というのはですね、正確には『おもちゃを扱うように私を扱ったわね』ということで、つまり暗喩であるわけなんです」</p> <p>今度はラムサスの目が丸くなる。</p> <p class="i0">「そういうことだったのか……」</p> <p class="i0">「通常、女性が男性に向かってそういった言葉を吐くときは、『私のことを好きでも無いくせに、遊び目的でつきあっていたのね』といった意味になりますね」</p> <p class="i0">「いや、別につきあっているつもりはないが」</p> <p class="i0">「では、その女性とはどこまでいきましたか?」</p> <p class="i0">「どこまでって?」</p> <p class="i0">「ですから、手を繋いだとか、キスをしたとか、それ以上……とか」</p> <p>ラムサスは顔を赤らめて答えた。</p> <p class="i0">「ちょっとまてよ。俺は彼女に色々相談されたからアドバイスをしたに過ぎない。手も繋いだことはないし、ましてやキスなど……」</p> <p>まあ、そりゃわかるんですけどね。</p> <p>ヒュウガはにっこりと笑う。</p> <p class="i0">「あまり、気にしないことですよ。たぶん、かなり思いこみの激しい女性なんだと思います。普通でしたらそのくらいで、『おもちゃにされた』などと騒いだりしませんからね」</p> <p>ラムサスは自分の勘違いにすっかり項垂れ言った。</p> <p class="i0">「ありがとう、ヒュウガ。一つ勉強になった」</p> <p>でも、本当はカールこそが一番おもちゃにされやすいタイプなんですけどね、とヒュウガは思う。</p> <p>そんな本心はひた隠しにして。</p> <p class="i0">「いえいえ、どういたしまして、カール」と食えない笑みを浮かべた。</p></div> <div><img src="http://xeno.s-kyanite.com/ds/dsw.cgi?p=n&&md=i&&pg=365086" alt="" width="1" height="1" /></div> <script src="http://www.google-analytics.com/urchin.js" type="text/javascript"></script> <script src="http://xeno.s-kyanite.com/js/google_ana.js" type="text/javascript"></script>