<div class="boxp">
<p class="i0">「おい、ヒュウガ。何を持っているんだ？」</p>
<p>シグルドが声をかけると、ヒュウガは握りしめていた直系七センチほどある球体の何かを差し出した。</p>
<p class="i0">「先輩のおみやげです。地上のね」</p>
<p class="i0">「おみやげって、ただの石ころだろうが」</p>
<p class="i0">「ただのって、ソラリスでは石は珍しいんですよ。ただの石って何の役にも立たないので、ソラリスでは見ることはできませんから。しかも、役に立たない分下手に持ち込むと始末書だし」</p>
<p>シグルドは難しい顔をした。</p>
<p>表面は灰褐色でくすんでいて、ちっとも綺麗じゃない。何が嬉しいのかさっぱりわからない。</p>
<p class="i0">「石なんて、地上ではその辺でごろごろ転がっているのにな」</p>
<p class="i0">「シグルド……記憶戻ったんですか？」</p>
<p class="i0">「いや、たぶんだ。俺の曖昧な記憶ではそうなっている」</p>
<p>シグルドは漠然とした地上のイメージにたまに悩まされる。</p>
<p>それが何かを必死に思い出そうとすれば頭痛がする。酷くなれば、激しい発作に繋がることもある。</p>
<p>だから、そういった時は、あまりイメージを追求しないようにしている。</p>
<p class="i0">「そうですか」</p>
<p>ヒュウガは手のひらの上で、石を転がしながら弄んでいる。</p>
<p>それを見ていたら、また何か曖昧なイメージが浮んだ。と同時にシグルドはヒュウガの手から「ちょっと貸して見ろ」と石を取り上げていた。</p>
<p class="i0">「この石は……もしかして」</p>
<p>石を凝視して表面を確認するように指先でなぞっていく。</p>
<p class="i0">「どうしたんですか？　シグルド」</p>
<p class="i0">「ヒュウガ……ラボ借りるぞ」</p>
<p class="i0">「何をするんですか？」</p>
<p class="i0">「切断する」</p>
<p class="i0">「え？」</p>
<p class="i0">「ラボなら、この石をすぱっと切れる道具が何かあるだろう」</p>
<p class="i0">「ウォーターカッターなら簡単に切れるかと思いますよ。でも、何故？」</p>
<p class="i0">「まあ、後のお楽しみだ」とシグルドはラボへと歩き出していた。</p>
</div>
<div class="boxp">
<p>鋭い音とともに、石が真っ二つに切断された。</p>
<p>青。</p>
<p>それは、目も覚めるような鮮やかな青だった。</p>
<p>切断面は綺麗な縞模様。真ん中には透明な結晶のクラスター。</p>
<p>呆然と見とれるヒュウガに、シグルドは「綺麗だろう」と言った。</p>
<p class="i0">「これは、瑪瑙ですか？　真ん中にあるのは水晶」</p>
<p class="i0">「ああ、そうだな」</p>
<p class="i0">「でも、どうしてそんなことを知っていたのです？　本当は記憶が戻ったのでは？」</p>
<p class="i0">「あ？　いや、はっきりとした記憶はない。ただ、この石を見ていたら直感的に中に何があるかがわかってしまったんだ。きっと、地上でこんなふうに割ったことがあるのかもしれない」</p>
<p>ヒュウガは両手に一つずつその石をのせる。</p>
<p>シグルドはヒュウガの手のひらにある石をじっと見つめる。</p>
<p>シグルドの瞳の色と似た色。</p>
<p>半透明の鮮やかな青がグラデーションとなって美しい模様を描いている。</p>
<p>吸い込まれるような色彩に、また何かの遠い記憶が垣間見えたような気がした。</p>
</div>
<div class="boxp">
<p>――青い瑪瑙は王妃様に。</p>
</div>
<div class="boxp">
<p class="i0">「シグルド　どうしましたか？」</p>
<p>呼ばれて振り向く。</p>
<p>黒い瞳がじっと見つめていた。</p>
<p class="i0">「ああ、なんでもない」</p>
<p class="i0">「そうですか。でも、丁度良かった。これで半分こずつできますね」</p>
<p>シグルドの手に二つに分割された瑪瑙の片割れを握らせヒュウガは微笑んだ。</p></div>
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