<div class="boxp"> <p>食卓の上には、質素だけれど手の込んだ料理が並べられていた。</p> <p>シチュー皿には、熱々のシチューが盛られ、なんとも美味しそうなにおいが部屋中に充満していた。</p> <p>そう、においはすばらしく食欲を誘うのだが……。</p> <p>目の前にあるシチュー皿の中に盛られたものを見て、シタンとミドリの父子は固まった。</p> <p class="i0">「あら? どうしたの、二人とも。食欲がないのかしら?」</p> <p>怪訝そうな目で、じっとシチューとにらめっこしたままの夫と娘にユイは訊いた。</p> <p class="i0">「あ、いえ……そういうわけではないのですが、このシチューの色……いえ、においはとてもおいしそうなんですが、なんというか……」</p> <p>ミドリも、こくこくと頷いた。</p> <p>そう、シチューは赤かったのだ。それも、鮮やかな赤。</p> <p>こんな色のシチューは二人とも食べたことも見たこともなかった。</p> <p class="i0">「あら? はじめてだったかしらね。ミドリは、もっと小さなころ食べていたのよ。でも、ラハンにきてからははじめてよね」</p> <p class="i0">「ええ、ですから、この綺麗な赤の正体が気になるのですが」</p> <p>真っ赤なスープの中に、野菜がたっぷり浸っていた。よく見れば、スープを赤く染めた犯人を見つけることができる。なんか、赤い大根みたいなものが入っている。</p> <p>そう、まるで赤いかみなり大根。</p> <p class="i0">「ラハンでは珍しい野菜よね。テーブルビートというの。シェバトのプラントで収穫されたのをおみやげでいただいたの」</p> <p class="i0">「テーブルビート……?」</p> <p>はじめて耳にする野菜の名前だった。</p> <p class="i0">「ええ、このシチューにはこのテーブルビートが欠かせないの。今まで、手に入らなかったからつくらなかったのよ。さあ、召し上がってみて」</p> <p class="i0">「はい」</p> <p class="i0">「あ、ちょっと待って」</p> <p>スプーンを握った二人を、ユイは慌てて制した。</p> <p class="i0">「え?」</p> <p class="i0">「ごめんなさい。サワークリームを忘れたら駄目よね」</p> <p>ユイは、クリームポットを持ち上げ、シチューの上にとろりとしたサワークリームをかけた。</p> <p class="i0">「では、いただきます」</p> <p>スプーンを手にすると、シタンとミドリ同時にシチューを口に入れた。</p> <p class="i0">「おいしい!」</p> <p>やはり二人同時に顔を上げ、ユイを見てにっこりと笑う。</p> </div> <div class="boxp"> <p>そのそっくりな仕草に「さすがに父子ね」と、ユイは、心の中で吹き出していた。</p> </div> <div><img src="http://xeno.s-kyanite.com/ds/dsw.cgi?p=n&&md=i&&pg=365260" alt="" width="1" height="1" /></div> <script src="http://www.google-analytics.com/urchin.js" type="text/javascript"></script> <script src="http://xeno.s-kyanite.com/js/google_ana.js" type="text/javascript"></script>