<div class="boxp"> <p class="i0">「それで……？」</p> <p class="i0">「いや、だからさぁ」</p> <p class="i0">「だから、ではありませんよ。いったい、どこへ行ったのですか？ おまけにミドリのスカートが破れているじゃないですか」</p> <p>フェイは黙ってラハンの一番近くにある――むしろ丘に近いのだが――を指さした。</p> <p>フェイの背中に隠れるようにしていたミドリも顔をひょこりと出し、こくこくと頷いた。</p> <p class="i0">「フェイと一緒にいれば大丈夫でしょうけれど……今度出かけるときはちゃんと、断ってから行きましょうね。お父さん本当に心配していましたのよ。でも、怪我がなくてよかったわ」</p> <p>ユイは、ミドリの頭を撫で微笑んだ。</p> <p class="i0">「ごめんなさい」</p> <p class="i0">「うん、悪かったよ。先生、ユイさん」</p> <p class="i0">「わかったのなら、今度は気をつけてくださいね」</p> <p class="i0">「まあ、あなたももう済んだことですし、説教はこのくらいにしましょう。そろそろ食事ができるから、中へ入って。フェイもね」</p> <p>フェイの顔がパーッと明るくなった。</p> <p class="i0">「わ、またごちそうになっていいの？」</p> <p class="i0">「何を白々しいこと言っているんですか。元々そのつもりだったのでしょう？」</p> <p class="i0">「……あっ」</p> <p>ミドリが小さな声を出した。</p> <p class="i0">「どうしましたか？ ミドリ」</p> <p>シタンが声をかけると、少し俯きもじもじとしている。</p> <p class="i0">「あ、そうだ。ミドリ、ユイさんにあげるんだろう？」</p> <p>ミドリは背中に回していた腕をユイに向かってすっと差し出した。ミドリの小さな手には、色とりどりの花束が握りしめられていた。</p> <p class="i0">「これ、俺とミドリからのプレゼント」</p> <p class="i0">「あら？」</p> <p>きょとんとした表情のユイに、シタンは手を乗せた。</p> <p class="i0">「ミドリは、ユイの誕生日をちゃんと覚えていたのですね」</p> <p>ミドリはこくんと頷いた。</p> <p class="i0">「ありがとうミドリ。毎日ばたばたしてすっかり忘れていたわ」</p> <p class="i0">「そんなことだろうと、思いましたよ。ミドリに先を越されましたけれど、私からのプレゼントもちゃんと用意してありますから」</p> </div> <div class="boxp"> <p>食事を終え、ミドリを寝かしつけたユイが、お茶のポットを持って、部屋に入ってきた。</p> <p class="i0">「ユイさん、本当に今日もおいしかったよ。ごちそうさま」</p> <p class="i0">「どういたしまして。お茶のおかわりはいかがかしら？」</p> <p class="i0">「うん、いただくよ。ありがとう」</p> <p>シタンがカップをテーブルに置いた。</p> <p class="i0">「そうそう、フェイ。ミドリはユイのプレゼントに花をとりに行きたいと、自分から言ったのですか？」</p> <p class="i0">「ちがうよ、ただ、ミドリとても困っていたように見えたんだ。だから、訊いたよ。どうしたの？ って。でも、何も言わなくて、でも、きっと何か欲しい物があるのかと思っただけだよ。色々俺が提案したんだけど……花の話をした時が一番反応がよかったんだ」</p> <p class="i0">「まあ」</p> <p class="i0">「で、花をとりにいくか訊いたんだ。そうしたら、行くっていうし、でも、ミドリが自分が欲しくて花をとりにいくことなんてなさそうだから、誰かにプレゼントしたいのかなって思ったんだ」</p> <p class="i0">「それで、ミドリに誰にあげるのか質問してみたのですか？」</p> <p>気のせいかシタンの声が少しだけ刺々しい。</p> <p class="i0">「うん、そうしたら、誕生日……だって。……ああ、そうか今日はユイさんの誕生日なんだって鈍い俺でも推理できたわけさ」</p> <p class="i0">「あの子……らしいわ。ミドリの気持ちをくみ取ってくれてありがとう、フェイ」</p> <p class="i0">「うん、どうってことないよ」</p> <p>と、フェイがシタンを見れば、いつものにこにこ笑顔のはずなのに、どこか引きつっているような気がした。</p> <p class="i0">「ミドリは、ほんとーに、フェイによく懐いていますね。フェイも、ミドリの心を理解できているんですね。それを考えると、ええ、私は駄目な父親です」</p> <p>どこか、拗ねたような口調。</p> <p class="i0">「先生？」</p> <p>何か不機嫌にさせるようなことを言ってしまったのだろうかと、目を丸くするフェイに、ユイはそっと耳打ちをした。</p> <p class="i0">「気にしないでね。難しいお年頃なのよ」</p> </div> <div><img src="http://xeno.s-kyanite.com/ds/dsw.cgi?p=n&&md=i&&pg=365235" alt="" width="1" height="1" /></div> <script src="http://www.google-analytics.com/urchin.js" type="text/javascript"></script> <script src="http://xeno.s-kyanite.com/js/google_ana.js" type="text/javascript"></script>