<div class="boxp:> <p class="i0">「なんだ、これは?」</p> <p>恋人の部屋で見つけた試薬らしきもののパッケージにジェサイアは指を伸ばした。</p> <p>一つに纏めていた髪をばさりと下ろしラケルは振り返った。</p> <p class="i0">「何って、字読めない? 妊娠判定薬よ」</p> <p>頭の中が真っ白になり、一瞬絶句する。そして、恐る恐る訊いた。</p> <p class="i0">「妊娠したのか?」</p> <p class="i0">「判定薬の反応を見るとその可能性は高いわね。明日にでも専門医の診察を受けてくるわ」</p> <p>ジェサイアはラケルの前まで歩いて真っ正面に立った。肩を掴む。</p> <p class="i0">「何故?」</p> <p>かなり間抜けな質問だった。</p> <p>ラケルはどちらかというと冷ややかに笑った。</p> <p class="i0">「何言っているのよ。やることやって、やるべきことしなければ妊娠もするでしょうね」</p> <p>思い当たる節はいくつもある。</p> <p class="i0">「おい、何そんな大切なこと黙っていたんだよ。おまえだけの問題じゃないだろう。俺の問題でもあるんだ」</p> <p class="i0">「妊娠していると診断され、DNA鑑定で間違いなくあなたの子どもだとわかればね。でも、まだ決まったわけじゃないし、はっきりするまでは私だけの問題よ」</p> <p class="i0">「といったって、俺の身内とかおまえの身内とか、おまえの将来の問題とか……色々考えないといけないことがあるだろう。今まで通りってわけにはいかない」</p> <p>ラケルは腕を組みあたふたとするジェサイアを、ぎろりと睨み付けた。</p> <p class="i0">「もう、だから嫌だったのよね。はっきりするまであなたに知られるのは。判定薬のパッケージ片づけておかなかったのはミスだったわね」</p> <p class="i0">「おい、ラケル。俺に関係ないみたいな言い方するなよ」</p> <p>ラケルは大きく息を吐く。そして、人差し指をジェサイアの鼻面に突きつけ言った。</p> <p class="i0">「いい? 確かに原因をつくったのはあなたかもしれないけど、妊娠に関して男ができることなんてないのよ。だったら、黙っていてよね。特にはっきりするまでは。はっきりしたら、私の考えを話すわ。私はこの可能性を前々から考えていたけどね。あなたは、あまり考えていないというか、いきあたりばったりのようだったけれど」</p> <p>言われて反論できなかった。</p> <p>可能性を考えなかったわけではなかったけれど、どこか人ごとだったのだろう。だから、それが現実として目の前に突き付けられたときに慌てる。</p> <p class="i0">「さてと、私はラボへ行くわね。データ解析がまだ残っているの」</p> <p class="i0">「ああ、……だが、無理するなよ」</p> <p>振り返りラケルは、笑った。</p> <p class="i0">「それと、あなたにもそのくらいわかっていると思うけど、これはアクシデントでもなんでもないのよ。容易に予想できたことなんだから。しっかりしてちょうだいね。もしかしたら、父親になるのかもしれないのねえ」</p> <p class="i0">「ち、ち……?」</p> <p>露骨に狼狽えたように反応を返す。ぷっと吹き出すラケルにからかわれたのだと気づいた。</p> <p>部屋を出るラケルの後ろ姿をジェサイアは「かなわんな」と見送った。</p> </div> <div><img src="http://xeno.s-kyanite.com/ds/dsw.cgi?p=n&&md=i&&pg=365213" alt="" width="1" height="1" /></div> <script src="http://www.google-analytics.com/urchin.js" type="text/javascript"></script> <script src="http://xeno.s-kyanite.com/js/google_ana.js" type="text/javascript"></script>