<div class="boxp">
<p>プリメーラは言葉で意思を表現できない。ジェスチャーで伝えようとする。問いかけに対し、首を縦に振っての「はい」か、横に振っての「いいえ」を基本として、それに微妙な表情が加わり複雑な感情を表現しようとする。</p>
<p>ずっと一緒にいた。大切な守るべき妹なのだから、誰よりも自分はプリメーラの気持ちを理解しているのだとビリーは思っていた。</p>
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<div class="boxp">
<p>久々の休日。孤児院の子どもたちとピクニックへ行くことになった。</p>
<p>ところが、その前日プリメーラが熱を出した。延期しようと言うビリーにプリメーラは首を横に振った。庭で遊ぶ子ども達を指さして何かを訴えようとする。</p>
<p class="i0">「わかっているよ。みんな楽しみにしていたって言いいたいんだね」</p>
<p>プリメーラはこくんとうなずいた。</p>
<p class="i0">「プリムは行けないだろう? プリムを一人で置いていけない」</p>
<p>プリメーラは口をへの字に曲げ首を横に何度か振ると、不満そうに別方向を指さした。父親の部屋だった。</p>
<p>ビリーは嘆息する。</p>
<p class="i0">「親父が一緒だから大丈夫だって? あの親父に任せるのはどうも心配で気が乗らないな」</p>
<p>ぽつりと言って、プリメーラの顔を見れば、困ったように薄紅色の瞳がじっとビリーを見つめていた。</p>
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<p>プリメーラは親父であるジェサイアに懐いている。ビリーは母や子どもを守れなかったような男を父親とは認めていない。プリメーラが言葉を失ったのは親父のせいなのだ。でも、そんなビリーと親父との関係が、プリメーラを悲しませている。理解はしているのだけれどどうしようもなかった。</p>
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<div class="boxp">
<p>ピクニックの日は天気にも恵まれた。喜ぶ子ども達を眺めながら、来てよかったとビリーは思う。プリメーラをつれてこれなかったことは本当に残念だったけれど。</p>
<p>丘には綺麗な花が咲き乱れていた。</p>
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<p>――そうだ、プリムの為に花を持って帰ってあげよう。</p>
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<p>花を瓶に生けて枕元においてあげるとプリメーラは本当に喜んでくれた。にっこりとした笑みを浮かべた。</p>
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<p>それから、咳が残り、なかなか体調がよくならないプリムの為に、ビリーは丘にある花畑に寄って花を摘んだ。</p>
<p>でも、プリメーラはあまり喜ばなかった。困ったような表情でそれでも微笑んで、首を小さく横に振っただけだった。</p>
<p>おかしいな? この花はあまり好きではないのかな。</p>
<p class="i0">「明日は、別の花を持ってきてあげるね」</p>
<p>そう言い、ビリーはプリムの頭を撫で部屋を出た。</p>
</div>
<div class="boxp">
<p>翌日、別の花を手に孤児院へと戻るが、やはりプリメーラは横に首を振った。</p>
<p>次の日も、次の日も。</p>
<p>プリメーラが好きだったのはどの花だったのだろうか?</p>
<p>ビリーは首を傾げた。</p>
<p>仕方なくその日は、なるべく多くの種類の花を摘んだ。一つくらいプリメーラの好きな花があるだろう。</p>
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<p>ビリーの腕に抱えた花束を見て、プリムは首を強く横に振った。</p>
<p>イヤイヤと。</p>
</div>
<div class="boxp">
<p class="i0">「どうしたの? プリム。何が気に入らなかったの?」</p>
<p>つい感情的になるビリーの声にプリムは、今にも泣き出しそうな表情で見上げた。</p>
<p>そこへ部屋のドアが開き、ジェサイアがどたどたと騒々しく入ってきた。</p>
<p class="i0">「大声出して、プリムが怯えるだろう、このバカ息子」</p>
<p>ジェサイアはビリーの腕の中の花束と、プリメーラの顔を交互に見る。嘆息してプリメーラの頭に手を置き、しゃがんで目線を会わせて言った。</p>
<p class="i0">「大丈夫だ、プリム。あの丘の花は、ビリーが取れるだけ取ってきても、無くならないくらいたくさんあるさ。プリムの風邪が治って、一緒に花を見に行けるようになっても、まだまだいくらでも咲いている」</p>
<p>プリムは父親を見上げた。その瞳は「ほんとうに?」と訊いている。</p>
<p class="i0">「ああ、本当だ」</p>
<p>ジェサイアはプリメーラの頭を撫で、ビリーをじろりと見た。</p>
<p class="i0">「まったく、このタコが。そのくらい気付よ。プリムはおまえが花を摘んでくることで、花が全部なくなってしまうのではないかって心配しているんだよ。本当はおまえと一緒に咲いている花を見に行きたいんだよ」</p>
<p class="i0">「あ……?」</p>
<p>プリムを見れば、薄紅色の瞳が語っている。</p>
<p>――そうなの。</p>
<p>ジェサイアを見れば面白がるようにニタニタ笑っている。</p>
<p>むっとするが、反論できなかった。</p>
<p class="i0">「というわけだ。ばか息子がヒステリー起こす前に消えるか」</p>
<p>そう言いながらジェサイアは部屋を出た。</p>
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<div class="boxp">
<p>閉まるドアを見つめ、ビリーは大きく息を吐いた。</p>
<p class="i0">「ごめんよ、プリム。気がつかなくて。風邪が治ったら二人で花を見に行こうね」</p>
<p>プリムは首を振らずに少し困った顔をした。その表情に今度こそプリメーラが何を思ったのかビリーは理解した。</p>
<p class="i0">「あ、そうそう。まあ、親父もたまには誘ってやるか。仕方ない」</p>
<p>プリメーラは、嬉しそうに微笑んだ。</p>
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