<div class="boxp">
<p class="i0">「ごくろうさま。お礼に夕食を召し上がっていってね」</p>
<p>期待通りの展開にフェイはにんまりと笑う。</p>
<p class="i0">「またごちそうになっていいの? でも、まだ時間あるから手伝いえることがあったら手伝うよ」</p>
<p class="i0">「今日は卵料理よ。診察代かわりにたくさん卵をいただいたの。ミドリと一緒に卵を割って、かきまぜておいてくれるかしら。あ、でもくれぐれもかきまぜすぎないでね。軽く白身と黄身が分離しているくらいが丁度いいわ」</p>
<p class="i0">「うん、わかったよ。いくつ割ればいいの?」</p>
<p class="i0">「そうね、十二個も割れば十分よ」</p>
</div>
<div class="boxp">
<p>フェイは頷き卵をテーブルへと運ぶ。</p>
<p>ミドリもとことことフェイの後ろに続く。</p>
<p>テーブルの上で卵を割り、ボールに入れていく。</p>
<p>一個、二個、三個とフェイトミドリ交互に卵を割る。</p>
<p>ミドリは小さい手で悪戦苦闘しているけど上手に割る。さすがユイさんの子どもだとフェイは感心する。</p>
<p>最後の十二個目の卵を割る。</p>
<p>ぽん……。</p>
<p class="i0">「あれ?」</p>
<p>ミドリも背伸びをして、テーブルに置いたボールの中身を覗き込んだ。</p>
<p>フェイの素っ頓狂な声にユイは振り返り、訊いた。</p>
<p class="i0">「どうかしたの?」</p>
<p class="i0">「今の卵、黄身が二個入っていたよ!」</p>
<p>興奮気味に説明するフェイに、ユイも一緒になって覗き込んだ。</p>
<p class="i0">「一、二、三……と、確かに黄身は十三個あるわね。双子の卵ってたまに見るわよ」</p>
<p class="i0">「双子の卵? すごい、俺、初めて見たよ。ミドリは今まで見たことある?」</p>
<p>訊かれてミドリは、首を横に振った。</p>
<p class="i0">「あら……そういえばそうね。たまに双子の卵があってもすぐに料理してしまうから、見る機会って料理をする人以外はあまりないかもしれないわね」</p>
<p class="i0">「ふーん」</p>
<p>フェイとミドリは一緒になってボールに顔を近づけじっと見つめている。</p>
<p class="i0">「もったいない気持ちはわかるけど、かきまぜておいてね」</p>
</div>
<div class="boxp">
<p>その晩の卵料理はいつもと違う味がした。</p>
</div>
<div class="boxp">
<p class="i0">「それでですね」</p>
<p>朝食後のお茶をすすりながら、シタンは妻に気になっていたことを訊いた。</p>
<p>ミドリは朝食を済ますと、庭へ出て今度は小鳥に朝食を与えている。</p>
<p class="i0">「何かしら?」</p>
<p class="i0">「いえね、3日連続して、朝食にカステラ……というのは、ユイらしくないと思いまして」</p>
<p>ユイはくるりと振り返る。</p>
<p class="i0">「あら、飽きたかしら。色々バリエーションはつけたつもりだったのだけど」</p>
<p class="i0">「いえ、飽きたということはありませんよ。カステラは好きですし、ユイのつくったカステラは絶品ですしね。ただ、連続して……というのは、はじめてでしたので何か理由があるのかと思いまして」</p>
<p>ユイはくすくす笑って、エプロンをはずし椅子を引いてシタンとテーブルを挟んで座った。</p>
<p class="i0">「この前大量に卵いただいたじゃない? 診察代かわりに」</p>
<p class="i0">「ええ、随分といただきましたね。でも、卵は日持ちしますから、そんなに一度に作る必要もないと思うんですが」</p>
<p class="i0">「ええ、殻ごと保存すれば今の気候なら一週間以上大丈夫よね」</p>
<p class="i0">「それなのになぜ?」</p>
<p class="i0">「だから、殻ごとで保存すればという話よ」</p>
<p class="i0">「もしかして……、誰かが殻を割ってしまった? でも、誰が何のために」</p>
<p>ユイはため息をついた。</p>
<p class="i0">「フェイとミドリよ。五日ほど前かしら、家で卵料理を一緒に食べたことあったでしょう? あの時割った卵に一つ双子の卵が入っていて、それを初めて見るフェイとミドリは珍しくて興奮していたわ」</p>
<p class="i0">「はぁ……」</p>
<p class="i0">「それで、もう一度双子の卵を見たいと、二人でこっそり割り続けたらしいの。でも、最後まで双子の卵は出てこなくてがっかりしたみたいよ。割ってしまった卵は料理しないと腐るし、日持ちする卵料理なんて、砂糖をたくさん入れるカステラくらいよ」</p>
<p class="i0">「まったく、ミドリはともかくフェイも子どもですね。……さてと、私は少し考えたいことがありますので、部屋へ戻りますね」</p>
<p>落ち着かない様子で、部屋から出ようとするシタンをユイは呼び止める。</p>
<p class="i0">「あ、それと念の為に言っておきますけど、常に双子の卵を生む鶏をつくろうとか、双子の卵を生みやすくする餌を開発しよう……なんてこと考えないでね。完成した頃にはミドリもフェイも飽きていると思うから」</p>
<p>振り返ったシタンの眼鏡の奥の目が丸くなっている。どうやら図星だったらしい。</p>
<p class="i0">「子どもじゃあるまいし、そんなことしませんよ」</p>
<p>否定しながら部屋を出ていく夫の背中に「どっちが、子どもなんだか」と、ユイは苦笑した。</p>
</div>

<div><img src="http://xeno.s-kyanite.com/ds/dsw.cgi?p=n&amp;&amp;md=i&amp;&amp;pg=365151" alt="" width="1" height="1" /></div>
<script src="http://www.google-analytics.com/urchin.js" type="text/javascript"></script>
<script src="http://xeno.s-kyanite.com/js/google_ana.js" type="text/javascript"></script>