159:海[ビリ-+プリム]
家族四人で暮らしていた。
ある日突然に親父が行方をくらました。何故姿を消したのかの理由なんて聞かされていない。
その後、親父の行方を知りたがる妙な死霊に襲われ母を殺された。母は襲われる直前ビリーとプリメーラを隠し銃を構えたのだろう。
あの時の銃声が今でも耳にこびりついて離れない。
やがて、死霊はビリーとプリムをターゲットにするだろう。ビリーはプリメーラを抱きしめ震えを必死で抑えプリメーラを守ることを決心する。
その時タイミング良く現れたストーン司教に幼い兄妹は助けられたのだ。
プリメーラはその時のショックで、言葉を発することができなくなった。
無理もない。
心の傷が癒え、心を開いてくれるまで待つしかないのだ。
プリムをどうやって養うか悩んでいた時に、またもやタイミング良くストーン司教が現れ、エトーンとなり死霊を浄化し人々を守ることに己の人生を捧げなさいとアドバイスをされた。
エトーンになる修行を受けた。まだまだ駆け出しではあるが少しずつエトーンとして仕事をこなしている。
エトーンの制服のリボンタイをきゅっと結べば、気が引き締まる。
「プリム……行って来るよ」
ビリーはドアを開けプリメーラを振り返った。ドアの外まで見送りに出たプリメーラと目が合った。
「さびしい思いをさせてごめんよ。でも、ストーン司教は僕に期待しているんだ。少しでも良い働きをしてストーン司教に恩返しをしないとね」
プリメーラの顔が曇った。
まただ……。気のせいではない。言葉を失ったプリメーラは口に出して説明はできないけれど、ストーン司教の名を出すといつもこんなふうに表情を曇らせる。ストーン司教が訪ねて来たときも部屋の奥へと隠れてしまう。
プリメーラのことを気にかけるストーン司教にビリーは、困ったように「プリメーラは人見知りが激しくて」と説明をするしかなかった。それでもストーン神父は気にする様子もなく「そうですか」と微笑んでくれる。
こんなに優しくて尊敬できる人なのに。でも、いつかプリムだってわかってくれるだろうとビリーは思う。
ビリーはプリメーラと目線を合わせ頭に手をのせた。
「今回の仕事が終わったら、プリムの行きたいところへ遊びに行こう。どこへ行きたい?」
プリメーラは黙ったままある方向を指さした。
ビリーはその指さす方向に視線を向けた。
「海……?」
プリメーラは頷いた。
「ああ、昔、おかあさんと三人で気晴らしに遊びに行ったよね。綺麗な貝がたくさん落ちていて……」
そこまで口にしたビリーの腕をプリメーラはぎゅっと掴み首を横に何度も振った。
「違うの?」
また首を横に振る。ビリーは困ったなとプリメーラの顔を覗き込んだ。
澄んだ瞳の奥に、大きな背中が一瞬見えて消えた。
親父……。
おとうさんも一緒だったと。おとうさんとおかあさんとビリーとプリメーラの四人で遊びに行ったのだと。そうプリムは訴えたかったのだ。
ビリーは目を伏せなんとか笑って見せた。
「わかっているよ……プリム。四人で行ったって言いたいんだよね」
やっとそれだけを言えば、それでもプリムはにっこりと笑んでビリーから離れドアに寄りかかり手を振った。
――いってらっしゃい。
……と。