111:ワイルド[バルト+フェイ+リコ]
「それにしても、でけーな、あいつ」
バルトは整備中であるシューティアの前に佇むリコの大きな後ろ姿を頭のてっぺんからかかとへとゆっくりと視線を落としていった。
亜人であるリカルド・バンテラスが強引に仲間としてユグドラシルに居座って、その後すぐにタムズに身を寄せていたフェイと合流した。なぜか、ゲブラーの制服に身を包んだねーちゃんがおまけにくっついてきたが。
「リコは……本当に強いよ。強力な助っ人になるさ。面倒見もいいしね」
後ろからフェイが声をかける。
「ふーんそうなのか」
「バルト、ああいったタイプ嫌いじゃないだろう?」
「あ、ああ……まあな」
バルトは照れたように笑った。
彼はユグドラシルの中では、ファティマ家の末裔、正統な王位継承者だ。
幼いときからアヴェの王位奪還のために行動を共にしている仲間達にとって、彼は『若』以外のなにものでもない。どんなにざっくばらんにクルー達と接していても、その見えない線を越えることは決してできない。
それは仕方ないことだバルトも理解していた。
だが、途中から仲間になったものたちはそんなしがらみなどない。フェイもシタンも王子ではないバルトという一人の男として付き合ってくれる。それが嬉しかった。
リコも同じだった。
「あいつ、せっかく助けてやったのに俺のこといきなりボコボコに殴りやがったんだそ」
身を乗り出して力説するバルトにフェイは冷ややかな視線を返した。
「バルトの早とちりでゴリアテ撃墜したんだろう? あたりまえだよ」
「そりゃそうだけどよ、こっちの言い分くらい聞いたっていいじゃないか」
「言い分もなにもないだろう。こっちは死ぬかもしれないところだっんだぞ」
呆れ返ったように文句を言うフェイにバルトはごまかし笑いを浮かべる。やぶ蛇だった。
リコはまだ整備士と何か話し込んでいいた。小柄な整備士が子どものように見える。
「それにしても、いいガタイしているよなぁ」
「そうだよね、純粋な腕力勝負で彼に敵うのはここにはいないだろうね。ああいうのを野性的というのかなあ」
フェイの何気ない言葉にバルトはぴくりと反応した。
「ふふふ……、俺のライバル出現というわけか」
フェイは目を丸くしてバルトを見た。
「何を言っているのさ」
「俺、ユグドラシルクルーの中で一番野性味あふれる男だと自負しているんだけどな」
「バルトがか? 知らなかったよ」
「知らなかった?」
済んだブルーの瞳がフェイをギロリと睨んだ。
フェイは慌てて言った。
「でも、まあ、た、確かに言われてみれば……」
「俺は負けないからな」
バルトは、力強く言葉を吐き出すと共に、拳を強く握りしめた。
「負けないって?」
「ああ、負けないさ。ワイルドスマイルの名にかけて」
フェイは笑いを堪えながら「がんばれよ」とバルトの肩を叩いた。