078:屋上[シタ+フェイ]
埃臭さとどぶ臭さが入り交じったような異臭が漂う街、キスレブ帝都D区画。
その囚人宿舎の診療室に、黒髪の青年医シタンが男を前に穏やかな表情でカルテになにやら書き込んでいた。
「心配はないでしょうが、薬を三日分出しておきます。三日経って症状が改善されないようでしたらまたいらっしゃい」
「ありがとよ、せんせさん」
ドスの利いた声が聞こえ、シャッとカーテンが開いた。
いかにも、犯罪者、ちんぴらといった風体だがどこか抜けたような男がのっそりと出てきた。
首にはごつい金属製のチョーカー……もちろんアクセサリーなどではない囚人の脱獄防止の為に装着させる爆弾首輪だ。
男が診療室から出ていくのを見計らって、隅っこに隠れていたまだ少年くらいの青年が医者の前にあらわれた。
「先生、今日は終わり?」
「はい、今のかたが最後の患者さんですよ、フェイ」
「囚人の俺と先生とじゃ夕食一緒に食べられないけど、夕食後、ちょっとつきあってくれる?」
「はい、私は構いませんが……何か?」
シタンは怪訝な表情でフェイを見る。
フェイは、照れくさそうにあとでねと言って、医療室を出ていった。
夕食を終えた二人は物見櫓に立っていた。
眼下には汽車の走る線路。
そして、遠くを見渡せば、キスレブの総統府と一般居住区の街を一望できる。
「ほう……。これはなかなか見事な夜景ですね」
「ね、綺麗だろう? こんなゴミ溜めみたいな街でもさ、見えるんだ。先生さ最近診療室に隠りっぱなしで、外に出ないだろう」
「外に出たとしてもろくな空気じゃないですからねぇ。街は臭いし汚いし、まさにゴミ溜め」
フェイはあはは……と笑った。
「そりゃ、酷い言い草だけど、確かにそうだよね。ここだって空気よくないけどね」
「いえいえ、良い気分転換になりましたよ」
「よかった」
フェイはにっこりと笑った。
そんなフェイの横顔をちらりと見て、シタンは言った。
「ねえ、フェイ。バトリングでは必ず優勝しましょうね」
「うん、任せておいてよ」
フェイは元気に答えた。