044:友達[フェイ+バル]
武器である鞭をチェックしながらバルトは言った。
「なあ、フェイ。シグと先生は友達同士だったんだってな」
自分の拳が武器であるフェイは、特に点検の必要もなく紅茶をすすっていた。
「ああ、俺も知らなかった」
「なんか十年以上会わなかったのにすごいよな」
「すごいって何が?」
「ほら、あっという間に話が通じちゃうみたいなんだ。相手が何を言いたいのかとか、本当に気心が知れているというか。会わなかった時間なんて関係ないんだよな」
「うん、若い頃、同じ学校にいたとかなんとか言っていたけど……何処の学校だろう?」
「さあな、俺もシグの素性とか経歴についてはよくしらねーんだ」
「でも、たぶん一生信頼しあえる友達同士なんだろうな」
バルトは、メンテナンスを終えた鞭をくるくる丸めて腰にくくりつけている。
「なあ、フェイ、俺さ今まで友達っていなかったんだ」
「そんなことないだろう。バルトは友達多そうだもん。俺と違って」
「駄目駄目。俺はここでは『若』だから。皆線をひいちまう。ひくなと言っても無理だし、酷な要求だって分かっているから俺は何も言わない」
「大変だな、王子っていうのも」
「フェイは……」
と言いかけて、バルトはしまったという顔をした。
フェイはここへ来る前、目の前で親友を撃ち殺されたショックでギアを暴走させ、そのため多くの村人を巻き込み死なせてしまった。そのことをバルトは知っている。
フェイはそんなバルトの気まずそうな様子に気が付き、バルトの肩をバシッと叩いた。
「いいよ、気を遣わなくても。あれは俺のせいだけど、あの時点では誰にも防ぐことはできなかったんだって今なら思える。だから、もっと強くなって誰もあんな目に合わせないようにしようって、そう考えるようになった」
「へえ、ちょっと前のおまえからは想像もできないくらい、前向きじゃん」
「からかうなよ」
フェイは頬を膨らませて言った。
これから、シャーカーンに捕らえられているバルトの従姉妹マルー救出に向かう。
従姉妹という関係以上の存在だったとも聞く。
本当は心配で心配で、居ても立ってもいられないのだろうに。
明るくて元気で、何事も前向きで。戦いだって楽しんでいるように見えた。
そんなバルトは悩みの無い脳天気な男に見え、その屈託のなさはフェイとって眩しかった。
だから「何故自分ばかり」と思っていた。
自分だけが世界で一番どうしようもなくて、どうしようもなく不運だだ思っていた。
でも、バルトの背中にある無数の傷痕。
あれは、もう消えることは無い。
その時、船内に直にアヴァに到着する旨の放送があった。
「おお、もうすぐ到着だな」
バルトが立ち上がる。
「うん」
フェイも立ち上がり、バルトに続いた。
「悪いな、おまえも先生も巻き込んじまって」
「バルトらしくないな」
バルトがくるりと振り返り、フェイに向かいあった。
「あ、俺たち……」
言いかけてバルトは口をつぐむ。
「なんだい?」
フェイは怪訝な表情をバルトに向けた。
バルトは少し顔を赤らめて、人差し指で頬をぼりぼり掻いた。目が何故か宙を泳いでいる。
「いやなんでもない。……気を引き締めていこうぜ」
変なヤツとフェイは笑った。