247:モンスターハウス[リコ]
「ねえ、お母さん、なあに? あれ?」
「ああ、おまえは亜人を見るのははじめただったわね。一応、ヒトなのよ」
「ヒト? 違うよ、あれはモンスターだよ。ヒトなんじゃない」
「しっ。そんなこと言うものではありません」
亜人排斥政策の中、亜人たちの居場所は少なくなっていく。それは、総統自らのの方針だったという根拠は何も無いことだった。しかし、亜人は排斥していい、少なくても差別してもかまわないという意識をキスレブの国民に植え付けていった。
いずれにしろ、そんなことは関係ない、とリカルドは思っていた。
どうせ、自分はアウトローだ。どこにも属しはしない。国など関係ない。自由なのだからと。
身体はでかく怪力だった。見てくれが見てくれだったから凄みもあったのだろう。ぎろりと睨めばほとんどの連中は黙って目を逸らした。ギア操縦の腕もかなりのものだったと自負していた。
リカルドにはリカルドなりの筋を通してではあったが、世間から見れば犯罪行為を繰り返した。やがて、お縄になりキスレブの犯罪者収容所に放り込まれた。
入所してから、間もなくのこと、政府関係者だと名乗る女が現れ、バトリングというギアを使ってのの闘技大会に出場しろと、シューティアまで提供してきた。
勝ち進みチャンピオンになれば、晴れてこの収容所から解放されるという。
データ収集が目的だとの説明だったが、本当にそれだけかどうか怪しいものだとリカルドは感じていた。だが、このチャンスをものにしない手はない。
そこでは強いことが正義だった。ここでなら『モンスター』呼称されることは賞賛されることに等しい。しかし、あっという間にバトルキングに上り詰めたリカルドは、『モンスター』と呼ばれることはなく『キング』と呼ばれるようになった。
しかし、やがて上には上がいると思い知らされることになる。
ドアをノックする音が聞こえ、ドアがすぐに開いた。
「リコ、いる?」
ベッドにごろりと横になっていたリカルドは、上半身を起こす。
「なんだ、フェイにバルトか、どうした?」
「うん、先生が打ち合わせをしたいから、来るようにって」
「わかった」
二人の後ろ姿を見送って、ふぅーと息を吐く。
まったく、自分よりずっと小柄なあの小僧にキングの座を奪われるとは。さらに、温厚そうで、どう考えても闘い慣れしてなさそうな医者の先生。あれも、強かった。それに、もう一人の小僧っ子バルト。ゴリアテを撃ち落とし酷い目に遭わせてくれたやつだが、度胸はいいし、強いことは強い。鮮やかな鞭さばきもそうだが、ギアを操る腕前も大したものだ。
まったく、世間は広い。
そんなバケモノみたいなやつらが三人も。いや、これから、さらにとんでもない連中がこのユグドラシルに集う。そんな予感がして、リコはにやりと笑う。こんなにわくわくする気分を味わうのは何年ぶりだろうか。
そう、ここは、まさにモンスターハウスなのだ。