221:原っぱ[イド+フェイ+シタ]
考えることも面倒くさい。
自分が誰で、何故こんなところに閉じこめられているのか。そんなことすらよくわからなくなってきている。
こんな軟弱な男に何故、表舞台を明け渡しているのか。
何故、何故だ。おかしい。こんなはずではない。間違っている。
自分に成り代わり表舞台に立っている、あいつ……フェイは赤ん坊だ。つまらない人間どもと馴れ合うことしか能がない。
気に入らない。このラハンとかいう村で暮らす連中すべてがだ。生きる価値のない脆い人間たち。あんなもの一瞬で殺せる。殺したところで面白くもないが。
「スケッチブックとパステル? 先生、ありがとう」
「フェイは、気がつくとなにか落書きをしていますよね。本当は絵を描くことが好きなのではないでしょうか? 落書きばかりではなく、こういったスケッチブックにちゃんと描いてみたらどうかと思って。描いているうちに何か思いだすかもしれませんよ」
「そうだね。描きたいと思いつつ、ずっと落書きで納得していたんだけど……。これで少しはそれっぽい絵でも描けるかな」
「とにかく描いてみることですよ。最初に、何を描きますか?」
「ほら、村はずれにある原っぱから見える風景を描こうかな。あの原っぱどこか懐かしい感じがするんだ」
「そうですか」
「ありがちな風景だけどね」
談笑する二人の和やかな声が、遠くで聞こえる。神経を逆なでする。
むかつく。イライラする。
何が先生だ。この男が一番気にくわない。温厚そうな顔で、闘いなどまったく縁がないといった面をして。善人ぶったいけ好かない嘘つき野郎だ。
フェイは騙されている。ずっと闘いの中に身を置いていた男だということに気づいていない。
だが、こいつが一番面白そうだ。手応えがありそうだ。俺を楽しませてくれる。
だから、出せ。今すぐ出せ。
殺してやる。殺して……。
「では、フェイ。私は帰ります。絵が完成したら見せてくださいね」
「うん、真っ先に先生に見てもらうよ」
あの男が、フェイが先生と呼ぶ男の背中が遠ざかっていく。
待て。行くな。
出せ。
出せ。
はやく出すんだ。
俺にあいつを殺させろ。
ちっ、逃げやがったか。
ふん、まあいいさ。いつまでも俺の支配下にあるやつを表舞台に出しておく気はない。じきに成り替わってやる。
その時は、真っ先にきさまを殺してやる。
なあ、先生。