207:片方だけ[エリィ]
ひどい、ひどい、ひどすぎる。
フェイが何をしたというの?
ドミニアの故郷エルルを滅ぼし、ユグドラシルを沈め、リコの部下を殺し、エテメンアンキを墜としたわ。
いったい、何千人、何万人の人々がフェイ一人に殺されたと思っているの?
それはフェイではない。イドがやったこと。
戦いが、グラーフがイドを引き出してしまうのなら、戦いの無いところへ行けばいい。
グラーフに見つからない場所で二人ひっそりと静かに暮らせばいい。
何ばかなことを言っているの? エリィ。
イドはフェイなのよ。別人ではない。イドの犯した罪はフェイとは無関係ではない。
良心の呵責に苛まれないというのなら、あまりにも図々しい。
これ以上、罪の無い人が死んでいくのを防ぐにも当然の処置。
フェイは、フェイはやさしいわ。
人が死ぬのを、傷つくのを見るのが嫌で、身を挺してキスレブを守ったのよ。
キスレブの多くの人たちの命を救ったの。
だから……。
だから、何だというの?
エテメンアンキには、たくさんの友人、世話になった人たちがいたわ。
もし、父さまと母さまが、あの時点でソラリスに残っていて、他の市民達と一緒にイドに殺されていたとしても、同じ事を言える?
父さまと母さまが?
でも、それはイド。フェイではない。
私は……。
そんな堂々巡りの自問自答を繰り返す。
もう綺麗ごとなんて言わない。身勝手なのは百も承知。
私は、世界中の人すべてを引き替えにしても、たった一人の大切な人を守る。
今の私にそれ以外に価値あるものなど何もない。
そのためだけに生まれてきた。
だから、生きて、フェイ。
いえ、今度こそ二人で。生きよう。
一人は寂しいもの。
※骨折モードにつき、短いです。
※この話に関連するお題は時系列順に以下のとおりになっています。