007:事情[シグ+シタ]
シャーカーンに幽閉されていたバルトの従姉妹マルーを救出して、一息つく間もなく次々と新しい事実が明らかになりフェイもバルトも面食らうばかりだった。
ソラリスの存在と、ゲブラー。そして、アヴェの宮殿で対峙したあのラムサスという男がシグルドとシタンと浅からぬ縁を持つ男だということ。少々混乱したものの、二人とも柔軟性のある若者だ。それなりに納得して前へ進もうとしていた。
ギアの調整が終わり、フェイとバルトはガンルームでメイソン卿のいれた紅茶をすすっていた。
「なあ、フェイ。おまえんとこの先生とウチのシグ。ここんとこ夜通し話し合いの毎日だ。二人で部屋にこもりっきりで。気になって一度ドアの前で様子をうかがったら、かなり激しい討論をしていたよ」
「ユグドラシルの戦力分析から今後の対策を立てると言っていたけど。先日のゲブラー急襲でいくつかギア失ったし。でも、ここの最高責任者なんだろう? バルトは。二人の話し合いに参加しなくていいのか?」
「ああ構わないんだよ。俺、緻密な計画練るなんて得意じゃないし、どちらかというと、そんときの直感と、シグの分析した結果を基に色々決断することが仕事。役割分担ってやつさ」
「そうなんだ」
「ああ、おまえもだけど、先生が俺たちの味方になってくれて本当に助かっている。先生って万能だよなー。あの誰も扱えなかったヘイムダルを易々と乗りこなし、腕っ節は強いし、メカにも詳しい、しかも医者もできるしな」
「うん、俺もラハンに住んでいたころから、先生には頼りっぱなしだ」
「まあ、いずれにしろ、俺たちは二人の負担にならないようにしてやろうぜ」
「そうだな」
フェイもバルトも自分たちの保護者の負担にならないように、少しでも二人を助けることができるようにと誓い合う。
微笑ましい光景だった。二人の様子を見守っていたメイソン卿は目頭が熱くなるのを悟られないように、二人に背を向け食器を片づける。
一方、副長の個室で作戦を練る保護者二名。
シタンは人差し指で軽くメガネを持ち上げ言った。
「で、まだご納得いただけませんか?」
腕を組み睨み付けながら、シグルドは即座に返答した。
「納得できるわけないだろう」
「困りましたね。戦力強化のためのこれ以上のアイディアは無いと思うのですが」
「ヒュウガ!! おまえというやつは。どうして、そう自分の趣味に人を巻き込むのだ? ユーゲント時代、俺もカールも先輩もどれほどおまえのその趣味に迷惑被ったか。先輩など何枚始末書を書くはめになったのか」
「む。それは、いくらシグルドでも聞き捨てならないですね。私がいったい何をしたというのです」
「もう、思い出したくもない」
「で、シグルド、話を戻しまして」
あくまでも、穏和ににっこり笑ってシタンはごり押しをしようとしている。それを察知してシグルドはまたもや即答した。
「駄目だ」
「人の話を聞かないで『駄目だ』はないでしょう。シグルドの考えもよーくわかりましたので、譲歩することにします。若くんの機体を使うのは諦めます」
「……で?」
シグルドの警戒の視線をもろともせず、シタンは自分のアイディアをにこやかに語りだした。
「はい、ミロク隊中心でいきますね。まず、それぞれのボディの個性からイメージできる動物を決め……」
「ヒュウガ……結局合体ロボなんだろう? いい加減合体ロボから離れろおまえは」
「何を言うんですか! 合体ロボこそ男のロマン。Gエレメンツの夢ふたたびです」
「駄目だ駄目だ。何が何でも駄目だ。合体ロボは断じて却下だ。わかったなヒュウガ」
「では、新しいアイディアなのですが……」
こうして毎晩毎晩、保護者二人が不毛な話し合いを繰り返しているのだということを、フェイとバルトは知る由もなかった。
何が「事情」かというと、大人の「事情」ってことで。