152ふわふわ[バル+ビリ+マリ+マル]
シェバトで仲間になったおチビちゃん、マリアという名前だ。
およそ愛想がない。あまり笑ったりしないし周囲を和ませようという配慮もない。
かといって、強い……わけではない。一生懸命なのは認めるが体力がなさすぎる。十三才とは思えない体格のせいだろうか。
ゼプツェンの性能がかなりのものだから、ギア戦は最強クラスかもしれない。
それにしても、ゼプツェンの肩にちょこんと乗って深海でも成層圏近くでも平気だというのは、頑丈な女の子だと感心する。
まあ、そんなことはどうでもいい。なんといっても彼女の一番の不可解は、あのヘアスタイルだ。
あのふわふわの巻髪は乱れることはなく維持している。手入れはどうしているんだろうか?
「何見ているのさ」
背後から聞こえたビリーの冷ややかな声にバルトは振り返った。
「なんだよ」
不機嫌そうにバルトは口を尖らせた。
ビリーはバルトの向けていた視線を追う。丁度マリアとマルーが雑談でもしているようだ。
ふんと鼻で笑う。
「マルーとマリア?」
「おまえもマリアもソラリス出身だろう? 顔見知りなのか?」
「バカいうなよ。僕はソラリスの記憶はまったくないし、親父たちがマリアの父親のことを知ったのはマリアがゼプツェンでソラリスを脱出した後だ」
「ふーん。いや、ソラリスの女って皆あんな複雑なヘアスタイルをしているのかなと思って」
「そんなわけないだろう」
「そもそも、旅にあの手入れ大変そうなヘアスタイルは向かないと思うんだけどな」
「君も女みたいに長くして、あまり機能的とは思えないけどね」
「おまえみたいな女顔の男に言われたかねーよ」
「母親似だから、仕方ないんだよ! と、そうではなくて、君も人のこと言えないだろうってことさ」
「俺のは、三つ編みだけだから大した手入れは必要ないんだよ。それを言えば先生だってフェイだってメイソン卿だって同じだろ。でも、マリアの髪は洗いっぱなしというわけにはいかないだろう。どう考えても毎日カールしているぞ」
ビリーはマリアをじっと見るが、面倒くさそうに言った。
「そんなことどうでもいいじゃないか。男のくせに細かいな、君は」
「なんだと、てめー」
徐々にエキサイトしていく二人のやりとりにマルーが振り返った。
「若! 駄目だよ喧嘩しちゃ」
バルトとビリーは我に返る。
「いや、別に喧嘩なんてしてねーよ、なあ」
「う、うん」
「ならいいけどね。二人ともちゃんと仲良くしてね。今は皆で力を合わせないといけないときなんだから」
「喧嘩しているつもりはなかったのですが。ご心配をおかけして申し訳ないことをしました。マルーさん」
ビリーは穏やかに微笑んで礼儀正しく返す。
そんな三人のやりとりにマリアはくすりと笑った。
笑えば可愛くなるじゃん。
それにしても、相変わらず見事なボリュームの巻髪だ。改めて感心する。
「それで若、さっきから二人でずっとボクたちのこと見ていたよね。いったい何を話していたの?」
「あ、いや……その」
「何なの? ボクたちに言えないようなことなのかな」
口ごもるバルトにマルーは身を乗り出して問いつめポーズだ。
「そんなことはないぞ、おチビちゃんのヘ……イテッ」
そこまで言いかけたところへ肘鉄を食らいバルトは黙った。
二人の間にビリーは割って入る。
「お二人ともいつもきちんとされていて、偉いという話をしていただけです」
にこやかに説明するビリーに、バルトはこいつはかなり食えねぇやつかもしれないと苦々しく思いながら頷いた。
落ちていない(笑)