268:アルバイト [シタ+フェイ]
旅をするのも楽ではない。
宿に泊まるにも、薬や食料を買うにも金がいる。ラハンを出立するときは、所持金などゼロに等しかった。
あの村で生活する限り、金を使うことなどほとんどなかったのだから、当たり前といえば当たり前だった。
黒月の森を抜けたフェイとシタンは、遺跡発掘で賑わう砂漠の街ダジルを目指していた。
「フェイ……旅の途中での収穫物はどのくらいありましたかね」
「うん、つちのこの肉が……一つ、二つ、三つ……。目玉と牙が……一つずつ。あとは……」
と、確認している。
フェイの手元をのぞき込んで、すべてを数える前にシタンは袋を閉じるように言った。
「たぶん、そのくらいあれば大丈夫ですよ。二日分の宿泊費と食事代、それにヴェルトールのパーツ代くらいにはなるでしょう」
「先生、つちのこの肉も売っちゃうの? 干してあるから保存食になると思うんだけど」
「つちのこの肉は非常食になりますので、取っておいてもいいかもしれません。でも、目玉にしろウロコにしろ、持っていたとしてもどうしようもないですからね。目玉は結構いい値で売れるのですよ。どこで手に入れたのですか?」
「ラハンの井戸の中に落ちていたんだ。……目玉って、食べられないのかな?」
シタンは腕を組んで考え込んだ。
「物的には、ゼラチン質も多そうですし、食べられないことはないとは思いますが。……フェイ、食べてみます? 塩でも振って焼けばいいんですかね。それとも、茹でたほうがいいのか。どう思います?」
身を乗り出したシタンの瞳が好奇心できらきらと輝いていた。思わず後ずさり、フェイはぶんぶんぶんと首を何度も振った。
「や、やっぱり、遠慮しておくよ」
「遠慮しなくてもいいんですよ、無理して売らなくてもなんとかなりそうですし……」
「ほんと、いいよ」
「そうですか」
心底残念そうにシタンはため息をついた。
フェイは胸をなで下ろした。
先生は博識だし、何でもできるから頼りになる。でも、こういったとんでもないところで好奇心を発揮するのは何とかして欲しいと思う。うっかりとしたことを言えない。
にしても、ウロコや牙は使えそうな気がしないでもない。でも、目玉など買い取った連中はいったい何につかうのだろうか? 先生に訊いてみようか。
フェイは、もう一度そっと袋を開き中をのぞき込んだ。目玉がフェイを見ているような気がして慌てて閉じる。顔を上げれば、シタンと目があった。
シタンはにこにこと笑っている。
「未練があるのでしたら……」
フェイは慌ててそれから続く言葉を遮った。
「違うよ」
危ない危ない。
やはり、下手なことを訊くのはやめておいたほうが無難だ。目玉はさっさと売ってしまおうとフェイは思った。