083:髪を切る[ウヅキ一家]
「はい、ミドリ終わりましたよ。とてもかわいいわ」
とても天気のいい暖かい日、庭でミドリの髪を切り終えたユイが言った。
肩からケープをはずし、ぱらぱらと肩に落ちた髪をはらってやる。
鏡をじっと覗き込んで納得したミドリは、にっこりと笑った。
「では、次はユイの髪の毛を切りますか?」
その様子を見ていたシタンが言った。
「そうね、毛先だけ少し揃えてくださる?」
シャキ、シャキ、シャキ。
鋏で髪を切る。
鋏の刃先に陽の光が反射してきらきら光る。
「こんなものでいかがですか?」
「まあまあね」
二人顔を見合わせ笑う。
そんな二人の様子をじっと見ていたミドリが、何かを言いたげにユイの顔を見上げた。
ユイは察してミドリの頭を撫でた。
「そうね、次はお父さんの髪の毛ね」
シタンは、「え?」といった表情をした。
「いえ、私はいいんですよ。ここまで長くなってしまうと、もう切ってもさほど変わりませんから、今度で」
にっこり笑うシタンにユイは言った。
「でも、限度問題っていうものもあるし、適当に切っておかないと……今度いつ切れるかわからないって状況になるかもしれないでしょう?」
「それは、そうなんですが……」
「では、切りましょうね」
シャキ、シャキ、シャキ。
ふと、気が付けばミドリがじっと見上げていた。
「ミドリも切りたいの?」
こくんと頷いた。
鋏を手にしたミドリは、シタンの髪を一房握り、ユイの手を借りながら、シャキッと切った。
黒い髪がぱらっと地面に落ちた。
それで、納得したのかミドリは少しだけ微笑んで、鋏をユイに返した。
ユイは再びシャキシャキと髪を切る。
結局、十センチくらいは切ったと思う。
でも、元が長いのでさほど短くはなった印象はない。
「はい、できたわよ。こんなもので良いかしら?」
「ええ、もちろん上出来です。頭が随分軽くなりましたよ。ありがとうユイ」
「どういたしまして」
シタンはしゃがんで、ミドリと目線を合わせてから、頭に手のひらをのせた。
「ありがとう、ミドリ」
ミドリはそれには応えず、ふいっと目を逸らし両親に背を向けた。
「ミドリ? ああ、やはりダメなんですね」
がっくり落ち込んだようなシタンにユイは言った。
「違うわよ。ただ照れ臭かったの、あの子。焦らなくても、いつかきっとわかってくれる日がくるわ」
見れば、ミドリは庭で遊ぶ鳥たちに餌をやっている。
ミドリは心で動物たちと話をしている。
シタンにはミドリの声は聞こえない。
そして、ミドリにも父親の声は聞こえていない。
いつか、あなたが心を開けば、ミドリの声が聞こえるようになるわ。そうすれば、ミドリにもあなたの声が聞こえる。
そう、ユイは言っていた。
シタンは目を伏せた。
「そうですね、あなたの言葉を信じますよ、ユイ」