043:青春。[ヒ+ユイ]
ソラリス軍の攻撃はやんだ。
何故?
ユイは駐屯地にある小屋の前でソラリスの飛空挺を頭上に見上げた。
駐屯地といっても、今はユイと、地上ゲリラ部隊を指揮していた彼女の祖父しかいない。
不意に感じた背後の気配に振り返る。
優しげで穏和な風貌の青年が微笑んでいた。
黒い髪に、黒い瞳。
その容姿からして、ソラリス人と一瞬気が付かなかった。だが、あの軍服はまちがいなくソラリスの将校クラスのものだ。
「あなたは、ソラリスの?」
「はい、ヒュウガ・リクドウと申します」
その名は耳にしたことがあった。
「では、今回のシェバト侵攻の指揮官ね」
「よくご存じですね。あなたは、ユイ・ガスパール嬢ですね」
「知っていたの?」
少女は、拳をすっと構える。
武術は祖父の仕込み。
負けはしない。
だが、青年は一向に戦闘態勢に入らない。
「やめましょう。私はあなたと闘う気はありません」
「あなたが無くても私があるの。そういって油断させて隙をつくって攻撃するつもりね。卑怯者!」
「あ、あの……そういった決めつけは良くないと思うのですが」
青年は困ったなという顔をして、腰から刀をはずしユイの足下に投げた。
足下に転がる刀をユイは、呆然として見つめる。
が、すぐに気を取り直し、青年をきっと睨んだ。
「どういうつもり? 素手になったら私の方が強いわ。きっと」
「ええ、たぶんその通りでしょう。私は素手での闘いには馴れていませんから」
「では、何故?」
「それはですね、それでもあなたは私には敵わないからですよ」
「そんなばかなことあるわけないわ。私をからかっているの?」
「いえ、そういうことではなくて」
青年が動いた。
それは、一瞬のことだった。青年はユイの後ろに立っていた。ユイは身動きできない。青年は素手なのに。
「あなたは、人を殺すことに馴れてはいない。いえ、そもそも戦場に出たことはないし、人を殺したこともない。違いますか?」
ユイは振り返り、背年の顔を見上げる。
「人の命を奪うことに躊躇っていたら、あなたが命を失う」
「人をばかにして」
図星だった。彼女の武術の師である祖父は決して、実際の戦いに孫を巻き込むことをしなかったのだ。今回も。
悔しくて俯き唇を噛む。
「いいえ」青年は首を横に振った。「それが大切なのです。強くても、強さに流されずに決して人を傷つけたくないと思うその真っ当な感性が」
この人もお祖父様とと同じ事を言う。
青年はどこか、寂しそうに微笑んだ。
ユイは相手に殺意は無いことを認めて、拳をそっとおろした。
「ユイー! 何をしておる」
遠くから呼ぶ声がする。
「お祖父様」
ユイは振り返った。
「飯は出来ているか?」
「はい、それよりこの人」
「ああ、飯を食わせることにしたから中に入ってもらいなさい」
「まってください。この人誰だか知っているのですか? お祖父様は」
「シェバト侵攻にあたってのソラリスの司令官だろう」
祖父はなんでもないことでもないように答えた。
「でしたら何故?」
ユイは祖父と青年の顔を交互に見た。
黒髪の青年はにこにこ笑っている。
「あなたのお祖父様はお強いですね。結局勝敗がつかなかったのですよ」
「なあに、おぬしも十分強いわ。だがまだまだ未熟だな」
と、二人は顔を見合わせて楽しそうに笑った。
ちょ、ちょっと何なのよ、この人たち。
ユイは唖然として、小屋に入る二人の背中を見つめる。
「変な人」
そして、吹き出すと食事の用意をするために小屋に入っていった。
ユイとヒュウガの出会い、青臭い青春時代……と思ったのですけど、この二人の出会いも、どういった恋愛していたのか想像がつかない(笑) 結構間抜けなイメージばかりが浮かびます。
※この話に関連するお題は時系列順に以下のとおりになっています。