257:掃除[ウヅキ一家]
年末には大掃除……いったい誰が言い出したのか。
一年の埃をはらい、新しい年を新しい気持ちで迎える。
言い換えてみれば、過去にあった色々まずいことも無かったことにしてしまおう……ととれないこともない。
ふむ……。
シタンは目の前に積まれたガラクタの山を眺め、顎に指を当て思案した。
さて、どうしたものか。捨てるものは捨て、使用用途にそって分類整理し、せめて形だけでも見た目すっきりさせないと、ユイに何を言われるかわからない。
仕方なく、捨てる物と取っておく物を分けてみる。
捨ててよい物は左に、捨ててはいけない物は右に。
最初につまんだのは、小さなネジ。
「まあ、ネジは何にでも使えますから、取っておいても問題ないでしょう」
次に手にしたのは、緑のプロペラ。
「これは……。確か……小型偵察機をつくろうとしたときの、試作プロペラですね。もっとも、こんな派手な緑のプロペラじゃ、目立って仕方ないですかねぇ。捨てるべきかな。……いや、これは……そうそう、扇風機として再利用可能ですね」
とぶつぶつ呟きながら、右側にあるネジの隣に置いた。
そうやって、ガラクタを次々に分類していく。
いや、分類したつもりだった。
「で? ガラクタの山がただ移動しただけのようにしか見えないのだけど」
ガラクタの山の前でユイが腰に両手をあて、盛大にため息をついた。
「いや、ですからね。捨てようとしたんですよ。でも、一つずつ眺めていくうちに、色々な用途が思いつきましてね」
「そういって、何かに利用されたことなどないじゃない。結局使わずにただ取っておくだけなら死蔵よ。捨ててあるのと同じだわ」
「面目ない」
シタンは項垂れ後頭部を掻いた。
言われればその通りだ。
結局これらのガラクタは、いつか役に立つことがあるかもしれないと、ただ取っておいただけだ。そして、いつかという日が来たことなど一度もないのだ。
「じゃあ、捨てなくていいから、こういうふうにして山を二つ作って置いて」
「え?」
「一つはミドリくらいの年の子が触っても、危なくないガラクタ。もう一つは、小さな子が触ると怪我をするかもしれないがらくた。いい? それなら、一時間以内にできるでしょう?」
「あ、はい」
そうして、がらくたは二つの山に分けられた。
それを見て、ユイはにっこりと笑った。
「あなた、ごくろうさま」
「あ、こんなものですかね」
「ええ、大丈夫よ」
「でも、これをどうするのでしょう?」
ユイは、背後のドアを振り返った。ミドリが覗いていた。
「ミドリ、いらっしゃい。こっちの右の山から欲しい物持っていっていいわよ。でも約束してね、左の山は怪我をするようなものも入っているから触っちゃ駄目よ」
ミドリはにっこり笑って、こくりと頷いた。そして、ちょこんと腰を下ろすと熱心にガラクタの山から好きな物を取り出した。
そんな愛娘の後ろ姿を見つめるシタンにユイは言った。
「大人にはガラクタでも、子どもから見れば宝の山よ。明日にはラハンの子どもたちに好きな物を持っていってもらいましょう。そのほうが、がらくたも喜ぶわ」
「ええ、本当に」
二人は顔を見合わせ微笑んだ。