151:双子[ウヅキ一家+フェイ]
「ごくろうさま。お礼に夕食を召し上がっていってね」
期待通りの展開にフェイはにんまりと笑う。
「またごちそうになっていいの? でも、まだ時間あるから手伝いえることがあったら手伝うよ」
「今日は卵料理よ。診察代かわりにたくさん卵をいただいたの。ミドリと一緒に卵を割って、かきまぜておいてくれるかしら。あ、でもくれぐれもかきまぜすぎないでね。軽く白身と黄身が分離しているくらいが丁度いいわ」
「うん、わかったよ。いくつ割ればいいの?」
「そうね、十二個も割れば十分よ」
フェイは頷き卵をテーブルへと運ぶ。
ミドリもとことことフェイの後ろに続く。
テーブルの上で卵を割り、ボールに入れていく。
一個、二個、三個とフェイトミドリ交互に卵を割る。
ミドリは小さい手で悪戦苦闘しているけど上手に割る。さすがユイさんの子どもだとフェイは感心する。
最後の十二個目の卵を割る。
ぽん……。
「あれ?」
ミドリも背伸びをして、テーブルに置いたボールの中身を覗き込んだ。
フェイの素っ頓狂な声にユイは振り返り、訊いた。
「どうかしたの?」
「今の卵、黄身が二個入っていたよ!」
興奮気味に説明するフェイに、ユイも一緒になって覗き込んだ。
「一、二、三……と、確かに黄身は十三個あるわね。双子の卵ってたまに見るわよ」
「双子の卵? すごい、俺、初めて見たよ。ミドリは今まで見たことある?」
訊かれてミドリは、首を横に振った。
「あら……そういえばそうね。たまに双子の卵があってもすぐに料理してしまうから、見る機会って料理をする人以外はあまりないかもしれないわね」
「ふーん」
フェイとミドリは一緒になってボールに顔を近づけじっと見つめている。
「もったいない気持ちはわかるけど、かきまぜておいてね」
その晩の卵料理はいつもと違う味がした。
「それでですね」
朝食後のお茶をすすりながら、シタンは妻に気になっていたことを訊いた。
ミドリは朝食を済ますと、庭へ出て今度は小鳥に朝食を与えている。
「何かしら?」
「いえね、3日連続して、朝食にカステラ……というのは、ユイらしくないと思いまして」
ユイはくるりと振り返る。
「あら、飽きたかしら。色々バリエーションはつけたつもりだったのだけど」
「いえ、飽きたということはありませんよ。カステラは好きですし、ユイのつくったカステラは絶品ですしね。ただ、連続して……というのは、はじめてでしたので何か理由があるのかと思いまして」
ユイはくすくす笑って、エプロンをはずし椅子を引いてシタンとテーブルを挟んで座った。
「この前大量に卵いただいたじゃない? 診察代かわりに」
「ええ、随分といただきましたね。でも、卵は日持ちしますから、そんなに一度に作る必要もないと思うんですが」
「ええ、殻ごと保存すれば今の気候なら一週間以上大丈夫よね」
「それなのになぜ?」
「だから、殻ごとで保存すればという話よ」
「もしかして……、誰かが殻を割ってしまった? でも、誰が何のために」
ユイはため息をついた。
「フェイとミドリよ。五日ほど前かしら、家で卵料理を一緒に食べたことあったでしょう? あの時割った卵に一つ双子の卵が入っていて、それを初めて見るフェイとミドリは珍しくて興奮していたわ」
「はぁ……」
「それで、もう一度双子の卵を見たいと、二人でこっそり割り続けたらしいの。でも、最後まで双子の卵は出てこなくてがっかりしたみたいよ。割ってしまった卵は料理しないと腐るし、日持ちする卵料理なんて、砂糖をたくさん入れるカステラくらいよ」
「まったく、ミドリはともかくフェイも子どもですね。……さてと、私は少し考えたいことがありますので、部屋へ戻りますね」
落ち着かない様子で、部屋から出ようとするシタンをユイは呼び止める。
「あ、それと念の為に言っておきますけど、常に双子の卵を生む鶏をつくろうとか、双子の卵を生みやすくする餌を開発しよう……なんてこと考えないでね。完成した頃にはミドリもフェイも飽きていると思うから」
振り返ったシタンの眼鏡の奥の目が丸くなっている。どうやら図星だったらしい。
「子どもじゃあるまいし、そんなことしませんよ」
否定しながら部屋を出ていく夫の背中に「どっちが、子どもなんだか」と、ユイは苦笑した。