197:ファイター[ヒ+ガス]
「司令!! お待ち下さい。軽率な行動はお慎みください」
あまりにもらしくない行動。予想し得なかった上官の行動に狼狽え制止しようとする部下の声は殆ど叫び声だった。
左手に刀の鞘を掴みハッチをあけ、飛び降りる。数メートル下の地面にふわりと着地した。
今回の戦では一度も触れることの無かった刀の手触りを手のひらの中で確認する。
地上の烈風が青年の長い黒髪をたなびかせていた。
「お手合わせを願います。貴方は、シェバト三賢者のお一人ガスパールですね」
真っ直ぐ、恐れることもなく自然体で目の前にいる青年。ガスパールと呼ばれた男はその青年深い闇色の瞳を見返した。
「わざわざ大将がお目見えか。若いな。名乗りなさい」
「ヒュウガ・リクドウ」
「リクドウ?」
ガスパールは僅かに目を細めた。
「目的は何だ?」
「純粋にあなたと戦ってみたかった。それだけです」
「つきあいきれんな」
「では、あなたが勝てば軍をシェバトから退かせましょう」
この言葉に、ソラリスの、いやこの若者の目的はほぼ達成しているのだとガスパールは理解する。
「それは勝負とは関係ないのであろう。はなっからそろそろ退かせるつもりだったな。おぬし」
「あれ? バレていましたか」
悪びれずに青年はにっこり笑った。敵と対峙しているのだという緊張感がまったく感じられない。
「断ると言ったら?」
ガスパールは眼光を鋭くして訊いた。
「私の気が変わるかもしれません」
「しかたない」
ガスパールは苦笑して拳を構えた。
青年は、刀の柄を右手で握るとすっと鞘から抜いた。白銀色の鋼が太陽光を眩しく反射させていた。
そうか……。あの、キッカの孫が、こんなに大きく。
ならば、本気で手合わせをするのが礼儀というもの。
なんとなーく、ガスパールのじいちゃんとヒュウガのじいちゃんキッカが知り合いだったらおもしろかったなーと、それだけです。
※この話に関連するお題は時系列順に以下のとおりになっています。