047:コンプレックス[シグ+ヒ]
シャワーを浴びたあと、肩にタオルをひっかけただけの格好で部屋をふらふらする大らかなルームメートにヒュウガは少し注意をしてみたりする。
「もう、下着くらいつけたらどうですか? 毎度毎度、素っ裸でふらふらしないでくださいよ」
「別に男同士なんだからいいじゃないか」
シグルドは一向に気にする様子はない。
「男同士でも、目のやり場に困ることもありますよ」
「変なヤツ」
ベッドに腰掛け、パンツをはいている。
シグルドがユーゲントに入ってから、生活環境が格段に向上したせいか急激に背ものびクラスメイトの中でもトップクラスの体格の良さだ。
最初出会ったころの、痩せこけた不健康な印象はきれいさっぱり消えていた。
日々、逞しく厚みを増してきている胸、引き締まった腹、尻。とてもきれいな身体だとヒュウガは思う。
男から見てもドキッとする。
人種的な特徴といえばそうなのだが、やはり自分と比較してしまう。
コンプレックスを感じずにはいられない。
「何やっているんだ?」
そう言いながらシグルドがのぞき込んできた。作業の手を止め、シグルドを見れば胸のピアスが目に入った。
ヒュウガはそれを指で軽くはじいた。
「どうして、塞がないのですか?」
「ん? 塞いだりしたら、ピアスしたくなったときにもう一度穴あけなくちゃいけないだろう? 二度も痛い思いはしたくない」
「ボディピアスをしないという選択肢もあると思いますけどね」
「あと、まあ、忘れないためにかな」
それは、シグルドにとっては屈辱の記憶であることをヒュウガは知っている。
普通ならばさっさと忘れてしまいたいことなのに。
「そん時のこと、もう一度話してやろうか?」
シグルドは戯けていった。
本当は、心の傷が完全に癒えているわけではない。
彼がたまに悪夢に魘されていることもヒュウガは知っている。
だが、シグルドは決して目を逸らそうとはしない。
強靱な精神と意思。
彼はこのユーゲントで誰よりも誇り高いとヒュウガは感じていた。
シグルドに比べれば、自分は目を逸らし逃げてばかりだった。
「遠慮しておきますよ」
そう言いながら立ち上がる。
シグルドは自分と並び立つヒュウガを見て少し驚いたような表情をした。
「ヒュウガ、おまえ背ぇ縮んだか?」
どういった発想だ?
ヒュウガはきっとシグルドを睨んだ。
「縮むはずないでしょう。あなたが最近バカみたいに背が伸びているだけなんですよ」
「そうか、そうだよなー。あはは……」
頭を掻きながらシグルドは笑った。
「まったく、あなたっていう人は」
ヒュウガはため息をついて薄苦笑いを浮かべた。