246:責任[ユイ+ガス]
※原案はちゃげさんです。前に会話だけで成り立っていたメモ的小話を描いてくださったのです。今回、それを元に書かせていただきました。
「あの人、いったい何をしに来ているのかしら。ソラリスの人間のくせに堂々と。図々しいったらありゃしない。でも、おじいさまが、ここまで他人に目を掛けるなんて、はじめてじゃないかしら」
祖父の前に紅茶を置き、ユイはついさっきまで、青年が座っていたダイニングチェアを見つめた。青年は談笑しながら食卓を共にしていた。
ユイがつくる料理を「おいしいおいしい」と、時には涙ぐみながら食べてくれる。その大げさな様子にわざとらしい演技かとあきれ返っていたけれど、どうやらまじめに感動していたらしい。
結構かわいい人なのかもしれないと思う。ユイは口元に微かな笑みを浮かべた。
「ふむ。ユイ、結婚……したらどうじゃ?」
祖父の口から発せられた唐突な一言。
「結婚って。誰と?」
バスパールは顎をしゃくった。
「決まっておる。ほれ、ついさっきまで、そこに座っていたソラリスの青二才じゃよ」
ユイは目を丸くした。
「おじいさまにかかれば、ソラリス総司令官も青二才呼ばわりなのね」
「お前はあれをどう思う?」
ヒュウガ・リクドウという名のシェバト侵攻にあたっての総司令だった青年。
恋とは少し違うように思う。恋愛って、ときめいたりドキドキしたりするものだと思っていた。確かにあんな変人には今まで出会ったことはない。これからもあらわれないように思う。
……そう、強いて言えば、あの人が私のつくった料理を食べるのを、ずっと見ていたい。本当にどうでもいいことななのに。考えれば考えるほどくだらない。ばかばかしい。
「よくわからない」
「わからんのか」
「何故私に彼との結婚をすすめるの?」
「お前とあれが結婚すれば、シェバトとソラリスの間になんらかの“道”が開けるからの」
「呆れた、私を利用しようとしたの?」
「あれの武術の技量は計り知れぬ。じゃが、まだだ。まだ“器”ができておらん。残念なことじゃ。もっと時間があれば、あれの実力を引き出してやれるのに」
「おじいさまは、彼が気になるの?」
ガスパールは思案するように、顎を指を撫でながらしばし沈黙する。そして、顔を上げ鋭い視線をユイに向けた。
「あれを放置してはいかん。あれの存在そのものが鋭い刀だ。しかも、鞘を持たぬ刀だ。だから危険なのじゃ」
「鞘を持たないって?」
「ユイ、気がついておらんのか? あれには致命的な欠陥がある。帰るべき処を持っておらぬ。自分が守るべき大切な人はいない。己を生へと繋ぎ止めるものなど何もない。そうだ、安心して包まれていることができる鞘を持っておらぬ。そんな人間はやがて自滅するしかないのじゃよ」
ユイは弾かれたように顔を上げ、祖父の顔を見つめた。
ああ、なるほどと思う。だから放っておけないと感じてしまった。彼の居場所をつくってあげたい。彼を支えたい。そう強く願っている。うぬぼれていると言われるかもしれないけれど、彼には私が必要なのだと、もう随分と前から、おそらく最初に出会った時に理解していた。
「だから、私に……?」
「そうだ、ユイ。鞘となれ」
※鞘というのは「るろうに剣心 追憶編」より拝借しています。