225:タワー[ジェシ+シタ+シグ+他]
そのシェバト工作員は、本来シェバトというのはバベルタワー最上階にあった都市国家を切り離し、天空をさまよっているのだと説明した。今でもバベルタワー最上階にはシェバトへの通信施設があるという。
つまり、バベル最上階へとたどり着ければシェバトへの道が開ける。
教会に封印されていたところからして、通信設備もともに封印されている可能性が高いと、悲観的なことを生意気な後輩は口にする。
それでも、シェバトへ行く手段は他に思いつかなかった。地道にバベルタワーの天辺を目指すしかないのだ。
工作員の話から、M計画のデータを移植したギアゼプツェンはまちがいなくシェバトにあると推測できる。
会議の席上、シタンは書類をまとめてトンと机に叩いてそろえてから、顔を上げた。
バベルタワーへ向かうのは、フェイ、バルト、ビリー、シタン、リコ、エリィの五名であり、他はユグドラシルにて待機だという。
「では、そのように……」
そう締めようとするシタンに、ジェサイアは思わず立ち上がった。
「おい、待て。ヒュウガ、俺も行くぜ。あれほど探したシェバトだ」
「駄目です」
即答され、むっとする。
「そうだよ、親父。黙って僕たちにまかせておいてくれよ」
彼の息子が追い打ちをかける。
「なんでだよ。理由を説明しろ」
「先輩が搭乗するギアがありません」
「バントラインがあるだろう」
シタンは人差し指で眼鏡を押し上げる。
「あれは、まだ修理中です。それに、修理が終わっていたとしても、弾頭になるしか能のないギアは足手まといなだけですよ」
「何、無責任なこと言っていやがる。あれはてめーが設計したギアだろうが」
「TPOを考えてくださいと私は言いたいだけです」
「では、ユグドラシルのギアから、一機借りていく。いいよな、シグルド」
「ジェシー先輩にお貸しできるギアはありません」
きっぱりとシグルドは断った。
「なんだと!? 先輩の言うことが聞けないのか」
シグルドは、額にかかった髪を掻き上げ、困ったような表情で笑った。
「お貸しできるギアは、汎用タイプのものばかりで、機能的にどうしても劣るんですよ。ここはおとなしく留守番をしましょう」
「シタンさんやシグルド兄ちゃんの言うとおりだよ。頼むから駄々をこねないでよね。……さて、明日は早いから、もう寝ようかな」
ビリーは席をたった。
「親父さん、あとでちゃんと迎えにいってやるからよ。少しまっていてくれよな。俺も寝よう」
ふぁーと大あくびをしながら、バルトはドアへと向かった。
「俺たちじゃ頼りないかもしれないけれど、俺もエリィもがんばるから。親父さんが留守を守ってくれれば安心だし。なあ、エリィ」
「ええ。心配しないでまかせてください」
エリィとフェイは二人仲良く立ち上がり会議室を出た。
笑いをかみ殺したような顔で、リコはジェサイアの肩をポンと一つ叩き、自室へと向かった。
会議室には、ジェサイア、シグルド、シタンの三名が残された。
「くっそー、あのガキどもかわいくねー。それ以上におめーらも後輩のくせにかわいくねー」
シグルドは肩をすくめた。
「先輩、若たちを信用してください。ヒュウガが一緒なら大丈夫ですよ」
「シェバトに無事に到着できれば、おそらくユグドラシルごと収監してもらえると思いますよ。それまで、辛抱してください」
シタンは書類を持って、にっこり笑いでごまかして会議室を出ようとした。そのシタンの手首をジェサイアは掴んだ。
「わかった。かわりにこれから飲んでやる。てめーらも付き合え。とことん飲ませてやる」
翌朝、バベルタワーへの出発日を何故か一日延期する旨の連絡がメンバーにあった。