222:未完成[ヒ+ラム]
毎日少しだけ、作業を進めた。
改良を繰り返し、それは決して完成することはない。
できあがってしまったら、それで終わりだから。第三層では、次に組み立てられるモノはもうない。
つくりあげたという喜びは、すぐに寂しさにすり替わる。
家族を失って、ユーゲントに入学するまでの三年間、ついに完成させなかった。それは、今でも手元にある。
シグルドがブランシュ宅に引っ越して二週間経つ。一人になった部屋にラムサスが訪ねてきた。
もともと、二人部屋に三人が同室だった。でも、ラムサスは空き部屋が用意されたときに、さっさと出ていった。
それとなく、またこの部屋に戻ってくるように提案してもみたけれど、一人の方が快適のようで、まったくのってこない。
「ヒュウガ……、シグルドが先輩の家に居候してから、おまえの部屋は壮絶なものになっているな」
「それは、散らかっているという意味ですか?」
「まあ、そうなんだが。……でも、よく見れば、整然と散らかっているように見えないこともない」
「どっちなんです?」
ラムサスは眉間にしわを寄せた。
「うむ。……にしても、わけのわからないものがたくさんあるな。このへんに転がっているものは、まだできていないのか?」
「まあ、そういうものもありますね。つくっている課程が楽しいから別にいいんですけど」
よく考えれば、半分くらいは完成などさせていなかったかもしれない。完成したらしたで、さっさと誰かにあげてしまっていた。
「……いったい何が楽しいんだ?」
「何がって、つくることそのものが楽しいんですよ」
「何かをつくるというのは、そのできあがったものに求める機能があるわけだろう。つまり、それは完成させなければ意味ないじゃないか」
「え? そう言われると……」
確かに、ヒュウガの場合つくることそのものが、目的になってしまい、つくりあげてからのことはあまり考えていないことが多い。第三層にいたころと違って、どうしても必要だからと切羽詰まってつくることなど、ここにいる限りないのだから。
「わからんやつだ」
ヒュウガはむっとする。
「趣味だからいいじゃないですか。誰だって他人には理解できない趣味の一つは二つあるでしょう? カールだって趣味の一つや二つあるでしょうに」
「趣味……?」
ラムサスはまた難しい表情で考え込んだ。
「ないんですか?」
「……俺の趣味はない。強いて言えば、ソラリスを理想国家に変革することだ」
ヒュウガは絶句して、まじまじとラムサスの顔を凝視した。
「それは、普通趣味とは言わないでしょう。それのどこが楽しいんですか?」
「制作途中で放棄して、未完成のモノを並べるなんて趣味の方が世間では理解されないと俺は思う」
「微妙にすり替えていますよ。私はつくることが趣味なんであって、未完成のモノを並べることが趣味なんかじゃないんです。だいたい半分はきちんとつくりあげていますよ」
「半分はまともに完成させていないんだろう? それは異常だ」
「異常って……、趣味のないあなたに言われたくありません」
「なんだと?」
二人のかみ合わない、議論はその後一時間続いた。
またもや、おちていない……。