185:フリー[ヒ+ガス+ユイ]
第三次シェバト侵攻作戦の総指揮をとったときその男に出会った。彼がシェバト三賢者の一人、武術の達人ガスパールであると知ったとき、何も考えず勝負を挑んだ。結局勝敗はつかず、何故か彼の孫娘がつくった料理が並ぶ食卓を一緒に囲むことになった。
この世にこんなにおいしい食べ物があるのかと、冗談ではなく涙が出た。
その戦争の目的はほぼ達成できていた。もともと軍は退かせるつもりだった。が、ヒュウガは図々しくもシェバトから撤退する条件に、今後、定期的にシェバトへ単身での訪問を受け入れるという条件をガスパールに突きつけた。あなたなら、ゼファー女王を丸め込むのはわけないでしょうと。
その白々しさに苦笑いをしながら、ガスパールは何故か承諾してくれた。
その後、決着をつけたいという理由をつけては、シェバトを訪問した。しかし、ガスパールは「もう儂も年じゃから」などとすっとぼけては勝負を避ける。
結局、世間話をしてユイのつくった食事にありついて帰るだけだった。
ただの世間話が議論になることはいつものことで、もともと好奇心だけは強いヒュウガにとってガスパールの話は興味が尽きなかった。ソラリスでは決して習うことのないソラリスとシェバトと地上の関係、そして歴史。意見を聞き反論し質問をぶつける。
そんな議論の間ふと視線にき気が付き振り返れば二人を見つめるユイがいた。
今や密かに師と仰ぐ男とその孫娘。三人の奇妙な関係。
でも、不思議と心地よい空間だった。いつまでも浸っていたいと思わせる。
「おぬしは、ふりーか?」
何度目の訪問だっただろうか、唐突にガスパールはヒュウガに小声で耳打ちするように訊いてきた。どうやらユイに聞かれたくない話題らしい。
ヒュウガは目を丸くして目の前の武人を見返した。
「ふりー? それは、どういう意味でしょうか」
つられてヒュウガもぼそぼそ声になる。
「だから、女房とか許嫁とかがいるのかどうかを訊いておる」
ヒュウガの目が丸くなる。何を言い出すのだこのじじぃは。
「い、いいえ」
ガスパールの目がキラリと光った。
「ユイをどう思う?」
「え? それはもう、器量よしで気だてが良くて料理の腕は一流料理人並みのすばらしさ、おまけに腕っ節も強い素敵な女性ですね。さぞかしご自慢のお孫さんなんでしょう」
「ばかもの。そんな社交辞令を棒読みせんでよろしい」
ヒュウガは少し肩を竦めた。そして、黙々と料理をしているユイの後ろ姿をちらりと見てから、まっすぐガスパールに視線を向け小声で言った。
「一生、共にありたいと思う女性にはじめて出会いました。ですから、プロポーズしたのですが……」
「何? わしの知らぬ間に。で、どうだったのだ?」
身を乗り出すガスパールにヒュウガは微苦笑して首を横に振った。
「あえなく玉砕しました」
「あれは断ったというのか?」
「はっきりと断られたというわけではないのですが、色々話しているうちにむっとした顔をされました。彼女を何か怒らせるようなこと言ったのかなぁ」
「ふむ。で、ユイのとこが気に入ったのだ?」
「ユイにもそう尋ねられて……で、考えたのですが。しっかりしているところとか、料理をはじめ家事万能だったりするところとか、我慢強そうなところとか……。そんな私にとって都合の良いことしか言葉にできなくて困りました。でも、本当はそんなことでうでもいいことで、もっと別の『なにか』があるんです。それが何であるのか言葉でうまく説明できない」
「そうか。まあ、がんばるんだな若造」
ガスパールは目を細め、いつまでも愉快そうに笑い続けていた。
ユイシタ、シタユイはウヅキ一家ものと違ってどうも書きにくいです。この二人に激しい恋愛どころか、恋愛らしい恋愛(ってどんなだ?)がイメージできないからなんでしょうね。
むしろ見合い結婚のイメージかも(笑)
※この話に関連するお題は時系列順に以下のとおりになっています。