184:プレイヤー[ヒュウガ]
近代戦などゲームと大差ない。
戦術クリーンに描かれ、刻々と変化していく戦況を眺めヒュウガは目を細めた。
見極め命令をくだしていく。司令官のすべきことは、如何に効率よく目的を成し遂げるかのみ。
ヒュウガは今回の戦いの間、ずっと手元においていた、しかし一度も鞘から抜くこともなかった刀を握る手に力を込めた。これは、所詮士気を高めるための飾りでしかない。
今回の戦では最後までこの刀を抜くことなく終わるだろう。ギア戦が幅をきかせる戦争では刀は無用の長物だ。
刀が役立たずだと思っているわけではない。目的による。刀は仕留めるべきたった一人の敵がいる場合には、有効な武器だ。相手の懐に飛び込めば最小限の被害で効率的にに敵を無力化することが可能だ。
だが、今回のシェバト侵攻にはそんな仕留めるべき特定の恐れなければいない個人などいないのだ。
「司令、お呼びですか?」
ブリーフィングルームに副官を呼びだし、ヒュウガは手短にこれからの作戦を伝えた。
「こことここを集中的に叩けばそれ以上は必要ありません」
「は? 食料プラントとギア製造拠点だけですか? 王宮を叩いてしまえばそれで済むのではないのですか?」
「シェバト侵攻の真の目的は死体のコレクションではないのですよ。これから、暫くはシェバトにおとなしくしていてもらおうというだけのことです」
「しかし、あと少し粘れば完全にシェバトは陥落します」
「そうですね。でも、貴方は疲れませんか?」
「はあ……?」
「私は少々疲れました。戦争には飽きましたし。目的を達成すればそれ以上のことは必要ありません。もう、十分にシェバトは疲弊しています」
狂ったような対空砲火、恐らく全機を総動員しての背水の陣を引いてのギア戦。実際シェバトはよく粘った。
予想以上にソラリス軍の疲弊も激しかった。シェバトには個人的恨みなどないが、取りあえずおとなしくして貰わないと困るというだけのこと。ある意味、退屈で無意味な戦いなどはさっさと終わらせてしまった方がいい。
今の時点で、シェバトには今後ソラリスと戦火を交えることができるだけの余力は残されていない。シェバトに残された道はゲートの守りを強化していくこと。自らの国家形態を保つことにすべてのエネルギーを費やすことになる。
ゲートという見えない障壁に護られているシェバト。自国を護ることだけに集中していれば、ソラリスすら、手出しは出来ない。
ゲートだけを唯一の命綱に中空の都市国家は永遠の守りに入る。いや、入ってもらうのだ。
空中戦艦のブリーフィングルーム。年若いその司令官の背後にある戦術スクリーンにはシェバト全景の映像が立体的に映し出された。
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