「ねえ、レナードさんのいた世界では、男同士で結婚すること、許されていた?」
漂う紫煙のせいで、視界がぼやけていた。白い霞を通して、マグナの真剣な濃紺の瞳がじっとレナードを見つめていた。どうやら、彼は大まじめなようだ。適当にはぐらかすわけにはいかない。
レナードは三分の一くらいが灰になった煙草を、手元の灰皿でもみ消した。
「何でいきなり、そんなことを訊くんだ?」
「うん、ここでは、男同士の結婚って認められていないんだってさ」
「……“だってさ”って、ここはお前さんの世界だろうが」
「俺、生まれ故郷では、その街から一歩も外へ出たことなくて、世の中の仕組みとかまともに学ぶことできなかったんだ。ここ、蒼の派閥に来てからも、世界の狭さってことに関しては、あまり代わり映えしなかった。俺は、子どものころから、結婚とは、一番好きな相手と一生仲良く助け合って生きていくことだと思っていたから」
レナードは、くっくっくっと笑う。
「だから、ネスティか……。シンプルでわかりやすいな、それ」
「それが、誰に相談しても、『男に対してそんな感情を持つのは一時的なことで、そのうち、素敵な女の子に会えば、男と結婚しようなんて思わなくなる』って、口を揃えたように言うんだ。だから、色々な女の子とつき合えってさ。しかも、ネスでさえ、『頭を冷やせ、それが、現実だ』って」
その拗ねたような口調が、可笑しくて、レナードはマグナの顔を覗き込む。が、その瞳には意外にも挑戦的な光が宿っているように見えた。
「それで、この世界の人間ではない俺様に訊くのか?」
「そうだよ、別の世界から来たレナードさんの意見を聞きたかったんだ」
「属する世界によって違うさ」
「それって、国のこと?」
「まあ、それもあるが、民族や、信じる神さまとかによってもな」
「レナードさんの世界には、そんなに沢山の国があったのか?」
「俺様も地理は苦手だったし、数えたことなんてないが、100以上はあるな。その中には、同性間の結婚が認められていた国もあったし、ばれたら極刑ってとこもある。十年前は認められていなくても、今は認められている国もある。今はダメでも十年後にどうなっているかなんてわからねぇしな。変えようと思って変えられない世界なんて無いんじゃないのか。教えただろ? テイク・イット・イージーだぜ。もっとも、まあ、あまり役に立つアドバイスとはいえねえな」
はははと、頭を掻くレナードに、マグナはにっこり笑う。
「ありがとう、レナードさん。可能性はゼロではないってことがわかっただけで十分だ」
レナードは徐に、ポケットからくしゃくしゃになった煙草を取り出し、にやっと笑った。
「なあ、マグナ、俺様がもし、他のリィンバウムの人間たちと同じ答えを言ったらどうしていた?」
「うーーーん、考えていなかったな」
「どうせ、期待する答えを聞くまで、聞きまくったんだろう」
「そうだね」
即答だった。
まだまだ、少年っぽさが残る、口調や表情。しかし、その強い光を湛えた濃紺の瞳と、くっきりとした口許の笑みは、マグナの揺るぎない意志と自信を教えた。
レナードは頼もしく思った。
そして、彼は、煙草に火を付けるのを忘れたまま、愉快そうに笑い続けていた。
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