空が真っ赤だった。潰された死体、壊れた人形のように四肢をバラバラにされた死体の中、人肉の焦げる臭いの間を抜け一人の幼い女の子が足を引きずりながら歩いていく。血を流し、虚ろな目をしながら燃え盛る街を逃れ草原へ……。
そ……う……あれは、私だ。
父さんも母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんもみんな血だらけで倒れていた。呼んでも呼んでも誰も応えてはくれない。何が起こったか解らなくて、最初は怖くて怖くて、泣きながら震えていた。
でも、もう泣いていなかった。なにも見てはいなし感じていないから。瞳には何かが映っているのだけど、私は、何も見ていない……見えていない。
そう……あの人に出会うまでは。
その人は、私よりずっと大きな大人の男の人だった。破壊されたギアが燃えて、たくさんの死体が転がっている中、深い傷を負いうずくまりただ震えていた。
私、すぐに解ったの。この人の方が私よりずっと怯えているって……。この人の方が私よりずっと傷ついているって……。だから、私は、手を伸ばしその人の髪に触ったの。淡い金色の髪がとても綺麗だった。
その人、両腕を伸ばし私の肩を掴むと私の顔を見上げた。金色の瞳がどこかで見た檸檬水晶のようだった。
唇が微かに動く……と、その時。
「ラムサス指令! ご無事ですか?」
数機の飛空挺とギアが空から降り立ち、軍服を着た男たちが次々と中から現れ私達を囲む。
「すぐに、手当を! 軍医を呼べ!」
一人の男が、私に銃口を向けた。
「エルルの生き残りか。始末する」
そして、私ははじめて、あの人の声を聞いたの。
「その少女に手を出すな! 保護しろ! 保護して手当をしてやれ!!」
「しかし……」
「責任は私が取る。言うとおりにしろ!」
そうだ、私はそのとき、誓ったんだ。
守ってあげるって……。これからは、私がずっと守ってあげるって……。
「夢……?」
たぶん、あの時の夢だ。何故、今更こんな夢を。今までに一度も見たことなどなかったのに。
はっきりは覚えていない切れ切れの断片だけの夢。それでもあの時の夢だろうことは解る。
ドミニアはベッドから上半身を起こして時計を見る。四時……ケルビナもセラフィータもトロネもまだぐっすり眠っている。起きるには早すぎるかと思うがもう眠れそうにもない。
粗末なベッドから起きあがると、身支度を整え洗面をすませる。洗面所の鏡の中にはまだ十代のはずなのに、疲れきった顔をした少女がいた。
「閣下……何故?」
対ゼウスの為の本部、雪原アジトは文字どおり雪の中にあった。メルカバーの中で、保護されたラムサスやエレメンツの面々も今はこのアジトにいる。もう、ソラリスも地上人もシェバトもなかった。はっきりとしていることは、デウスを倒さなければこの惑星の人類に未来はないということだけだった。
ラムサスは、意識が戻ってから、ずっと医務室のベッドの上で一日中ただ宙を見ているだけだった。
その目には私の事も映ってはいない。その耳には私の声も届いていやしない。
医者は言う。身体の傷はもう殆ど癒えている。あとは心の問題だ……と。
では? 私はどうしたらいい?
ドミニアは気を取り直し、何か温かいものでも飲もうかと食堂へ向かうことにした。誰もいない廊下は暗く静かでコツコツという彼女の足音だけが、しぃーんとした空間にこだましていた。
「おや、おはようございます。ドミニア、ずいぶんと、早いですね」
ドミニアはいきなり背後から声をかけられてビクッとする。この声は……。
こんな時間に起きているなんて夜間任務のものだけの筈だ。だいたい足音なんてしなかったし気配もなかったじゃないか……と、振り返ると想像した通りの男が立っていた。
「おはようございます」
よりによって一番会いたくない奴に会ってしまった……という表情を取り繕うともしないドミニアにシタンは苦笑するが、すぐにまったく気にもとめていないというふうに微笑む。
「お嫌でなければ、温かいものでもごいっしょにいかがです?」
とぼけた男だぜ、まったく……。と、心の中で呟きながらもドミニアはある理由からつき合うことにした。
「いいさ、別に。私もあんたに話があったから」
シタンはわざとらしく目を丸くする。
「ほう、私に話ですか……(まあ大体は想像がつきますけれどね)」
ドミニアはシタンについて食堂へ向かった。
食堂は暖房をある程度きかせているとはいえそんなにエネルギーを無駄遣いするわけにはいかず、凍えない程度のものだった。奥の食料庫にこのアジトに身を寄せている人々のを養うため世界中から集められた缶詰などの食料や飲み物が山のように詰まれていた。
「ポタージュでいいですか?」
シタンはその中から、スープを二人分取り出し、慣れた手付きでにカップへ注ぐとレンジで温めた。
まだ、夜も明けぬ早朝ということもあって、食堂には誰もいない。静寂の空間に二人の声だけが妙に響く。
「缶詰しかないんですけどね。贅沢いってはいけませんよね」
ドミニアはカップを受け取り両手を温めるながら、まずは彼女にとってどうでもいいことを口にした。
「デウスにはいつ向かう?」
「予定どおりいけば、4日後です。もう一度、すべてのデータを洗い計算をやり直し、ギアを再点検するのに3日はかかりますから。後はありませんからね。ミスは許されません」
そうだ、後はないのだ。どんなに気に入らなくてもこのかつて敵だったものに頼るしかない。
「先生……」
「え……?」
シタンは露骨に驚いた表情をしてドミニアをまじまじと見た。ドミニアがそう呼ぶのは初めてだ。というより、シタンに呼びかけること自体初めてだった。それに気がついてドミニアはいかにも居心地が悪いというふうに口を尖らせる。
「み、みんなが先生って呼ぶから……」
「あっ、失礼。気になさらないでください。あなたに呼ばれたのは初めてですよね。それより、私に何か話したいことがあったのでは?」
ドミニアは真っ直ぐシタンを見ると、一番言いたかったことを口にした。
「何故、閣下を捨てた?」
「………」
シタンは予想もしていなかった質問に内心、狼狽えた。いや、おそらくラムサスのことについて聞かれるだろうことは解っていたのだが、こんなふうに切り出されるとは思ってもいなかった。
「これは、唐突ですね……」
それでも、心の動揺はまったく見せることはなく、その声も表情も変わらない。子供相手に我ながら嫌な男だ……と思う。
「何故、閣下を捨てたんだ?」
もう一度強い調子で尋ねるドミニアの真っ直ぐ、自分を見つめる真剣な目……どんなごまかしも嘘も許さないというような、強い決意を持った眼差しにシタンは圧倒される。
参りましたね。これは、適当にあしらう……訳にはいかないですよね。
シタンはスープの湯気で眼鏡が曇ってくれたたことをそっと天に感謝した。お陰で、ドミニアの刺すような視線が少しはやわらぐというものだ。
「ドミニア、もう少し、きちんと筋道を立ててお話し願えませんか?」
と、大人のずるさで時間稼ぎをする。
「閣下は、あんたが自分を裏切るとは思っていなかった」
「私が裏切ったと?」
「そうさ、あんたは何度も何度も私達の前に立ちはだかり、戦った……。私達はあんたがソラリス守護天使の一人で天帝の密命を受けていたなんて知らなかったよ。閣下も教えてくれなかったし。そうだよ、閣下のことだってあんたより知らなかった」
ドミニアは考え考え、言葉を選ぶ。自分の言いたいことをどうやったら解らせることができるか。感情的になり、途中で何が言いたいのか解らなくなりながらも一生懸命言葉を繋ぐ。
「閣下はずっとあんたを信じていた。あんただけは絶対自分を裏切らないってね。あのエテメンアンキ破壊のあの日まで。だから、あんな女に……あんな女に操られて」
シタンはカップを手の中でゆっくりと揺らし、スープの表面がくるっくるっと回るのを意味もなく数える。
「私は、カールを裏切った訳ではありません。私の選んだ道と彼の選んだ道が違っていただけです」
「そんなの詭弁だ! 確かに、今になってみれば、カレルレンやミァンにいいように利用されていた閣下よりあんた達の判断が正しかったということは解るさ。あんたにとって閣下は何だったんだ?」
「古い友人です」
眉ひとつ動かさずにそういうと、シタンは食堂のテーブルの上に空になったカップを置き両手を膝の上に乗せ指を組んだ。スープで温まった筈の指先がもう冷たくなっている。
「じゃあ、聞くが、それが本当なら何故閣下の側にいて助けてくれなかったのだ? あんた達の方が正しいのなら、何故閣下を説得してくれなかったんだ? カレルレンや法院やミァンから何故、閣下を連れ出そうとしなかったんだ? あんたは何もかも解っていたのに、何もかも見えていたのに敢えて放っておいたんだ! その間、何度も閣下に会いながら……」
痛いところをつきますね。そうです。あの時……。
「貴様も……この俺を、裏切るというのか!!」
銃声、爆音、そして、燃え盛る炎の中、ラムサスの目は既に普通ではなかった。忘れたくても忘れられない目。
「カール、私とあなたとでは立つ立場が違うだけです。裏切った訳ではありません。私はフェイ達といようと……そう決めたのです」
ぞっとするくらい冷たい返事だった。感情を込めず事実を事実として言ってしまう……性分ですね。
「この、裏切り者ぉっ!!」
身体を切りきざまれるようなような痛みだけを受け取ってきてしまった。
いつからか、静かな食堂の中で緩んだ蛇口から水がピチャッ……ピチャッと等間隔に音を刻む。
「「私は、そこまで傲慢ではありませんよ。自分の判断が絶対に正しいと思っているわけではありませんから押しつけることはできません」
ドミニアはうつむき、何度も何度も首を横に振った。銀色の髪がばさばさと小さな音を立てる。
「解っている……。解っているさ、そんなことは……。あんたが悪い訳じゃないなんてことくらい。でも……どうしようないんだ! 私達じゃ、私じゃ駄目なんだ!」
シタンはドミニアが泣いているのかと思い顔をのぞき込むが、その目に涙はなかった。
この少女はいったいいつから、泣くことをやめてしまったのだろうか。
あのエルルの悪夢。幼いドミニアにどれだけの地獄を見せたのか。どれだけの大きな傷を負わせたのか。
彼女だけでなかった。エレメンツのメンバーは皆、一様にそういった傷を負っている。
そして、シタンはそこにはいない友人に心の中で尋ねてみる。
カール……あなたは、何故彼女達を捨てて置くことができなかったのか解っていましたか?
相変わらず、ピチャッ……ピチャッと水が立てる音だけが食堂の中で響き、重く息苦しい空気が、二人の周りを覆っていた。
やがて、他の人々も起き出す時間になり、調理担当のものが食堂に入ってくると、シタンはやっとドミニアに向かって口を開いた。
「ドミニア……食事をしてから、部屋に戻ってもう一度休んだ方がいい……」
「いらない。食欲ないから」
ドミニアは自室に戻るために静かに席を立った。
「隅におけねぇな。早朝デートかぁ?」
解り切った声の主を確認するまでもない。が、それでも振り向くと、コーヒーの入ったカップと朝食のプレートを持ち、にやにやと面白そうに笑っているジェサイアと生真面目な表情をしたシグルドが立っていた。
「先輩、何を呑気なことを。思いっきり苛められていたんですから」
ジェサイアはカップに口を付けながらプレートをテーブルに置くと、椅子を引きどさっと座った。シグルドも手に持った二枚のプレートのうちの一つををシタンの前に置き、黙って腰をおろす。
「せっかく、シグルドが持ってきてくれたんだ。食えよ」
「すみません」
「カールか……どうなんだ?」
「相変わらず……みたいですよ」
「おい! みたいって、おめえら見舞いに行っていないのか!?」
「はあ……まあ……意識が戻ったとき一回だけは行ったんですけれど。小心者なもんで……」
ジェサイアはばつが悪そうにしているシタンに、あーあ、といった仕種で額に手を当てながらうつむき一言、「バカか……」
黙って二人の会話を聞いていたシグルドはプレートの料理をつつきながら、口を挟む。
「なあ、ヒュウガ……。俺は、ソラリスを離れてから、あいつとは会ってはいない。だから、正直言って日常の中であいつのことを思い出すことは殆どなかった。だが、おまえは……」
シタンは、その声の中に自分を責めるような響きがあったような気がしてシグルドの方を振り向いた。
そう……あなたの思っているとおりです。私はあなたの伺い知らぬところで、何度かカールに会っていた。
「シグルド……。それは私も同じです。普段、カールのことは忘れていましたから」
これは、半分は本当で半分は嘘だ……。思い出したくないから、忘れていたいから、わざと意識しなかった。壊れていく友人を見続けていくことはできなかった。最後にはその声もはっきり思い出せぬ程に。
「いや……だから、おまえの方がきっと辛かっただろうと……」
彼は決して責めているわけではなかった。そう感じてしまったのは後ろめたいところがあったからか……。そんなシグルドの優しさがかえってこたえる。
ジェサイアは相変わらず世話がかかる後輩だという目つきで、二人の顔を交互に見る。
「ヒュウガ、おまえは、本当に進歩のない奴だな。昔から、そうやって何でもかんでも自分一人で抱え込みやがって」
「…………」
「そういう訳だ、シグルド。こいつの水臭さは昔からだ、いちいち気にすんな」
「気にしてなど……」
「それより、いったい、何があったんていうんだ? なんで、あいつはああなっちゃったんだ? ちゃんと説明しろ」
シタンは深呼吸を一つしてからジェサイアの方を見ないまま、ぽつりぽつり話し出す。
「カールはね、愛された記憶がまったくないんですよ」
「……」
「フェイやリコやマリア、そして、シグルド……あなたや私だって、幼い時期に無条件に愛されてきた記憶はあります。たとえ、それが、どんなに短くてもね」
「だが、奴にはそれがない……か」
シタンは黙って頷く。
「先輩……。カールはまるで捨てられた子猫でも拾ってくるように、ドミニアたちのような拠り所のないものたちを保護してきましたね」
「ああ……」
「『将来的に役に立ちそうだから……『などと、嘯いていましたが、今から思えば、心の飢餓感を少しでも満たしたかった」
「何に飢えていたというのだ?」
「カールはね、苦痛を与えられる為に生まれてきたようなものです。その苦痛から癒される為に無我夢中で何かを求めてきた。なのに、求めるものすらカレルレンやミァンにコントロールされ、本当に自分が欲しているものは何なのかも理解していなかった……」
シタンは相変わらず目の前の朝食に手をつけていない。
「私がそのことに気がついたのはもう後戻りは許されぬところまで来てしまってからです。うかつでした……」
目を伏せ、小さく首を振るシタンにジェサイアは、「まったくしょうがないヤツだ」と大きく溜息をつく。
「おまえさんの『うかつ『っていうのは今にはじまったことじゃねぇだろ? まあ、大方解った。そこのところをドミニアに責められたっつーわけか……」
「ええ。『解っていながら何故、手を拱いて見ていた……』とね……」
ジェサイアはいつものお気楽な調子で意地悪く笑う。
「ぶっわぁっははは……いい気味だ! おまえがよりによってあんな娘っ子一人にやりこめられるなんてな!! あははは……」
「ジェサイア先輩!!」
シタンは、焦るシグルドの隣で大笑いを続けるジェサイアを「話すんじゃなかった」という顔で睨み付ける。
「大の大人が何暗くなっているんだか。奴は大丈夫さ……おまえらが信じてやれなくてどうする? 生きているんだ、赤ん坊のときのことなどいくらでもやり直すことができる」
「…………」
「だいたいなー、無条件で愛された記憶がなかったてな、エレメンツのお嬢ちゃんたちは何か見返りを求めていたか? おまえらはどうなんだ?」
「え? ええ……」
「あんまり駄々をこねるようだったら、横面ひっぱたいてやるくらいが丁度いい。ガキはそうやって躾るもんだ。解ったら、さっさと二人で見舞いに行ってやれ!」
「先輩は?」
「あー? 俺は陰々滅々としたの苦手でな……。今、行ってもからかい甲斐はなさそうだし……まあもうちょっと回復してからにするわ。……あ、それとな、ヒュウガ、食いもんは無駄にするなよ!」
そう言いながらジェサイアは席を立ち空になった食器を片づけてから食堂をあとにした。
しかし、この男は何とあっけなく出口を示すのだろうか。空回りする思考の中で堂々巡りしたまま、一歩も進めなくなっていた自分がばかばかしくなる。
かなわんな……と、シタンとシグルドは目を合わせ笑う。
二人が医務室にはいると、ラムサスにどう接していいのか解らないエレメンツのメンバーが途方にくれていた。
シタンは、決心してラムサスの前に歩み寄る。
「カール……。聞いて下さい」
ラムサスは相変わらず誰も見ようとしはしない。
「今は、我々が敵味方といった関係を越えて協力せねばならぬ時なのです。そして、あなたの力も必要なのです」
「……。俺は……塵だ。もう……生きて……俺の……塵……」
パシィーーーン!!
シタンの右手が上がったと思う間もなくラムサスの頬で大きな音を立てた。
「甘ったれたことを言うんじゃない!!」
誰よりも驚いたのは、シグルドだった。
「ヒュウガ!? おまえ……」
「塵……。あなたはそういって自分を卑しめていればいいかもしれない。でも、彼女達はどうするんです!?」
その瞬間、ドミニアはハッとした表情をする。
「あなたを慕って集まった彼女たちも、塵なんですか? 寄る辺のなかった彼女達を護った理由……それは健全なものではなかったのかもしれない」
ドミニアの脳裏に次々とあの時の記憶が蘇りつつあった。
「でもね。それでも、彼女達はあなたの下を離れなかった。なぜだか解りますか?」
そうだ、初めて出会った時……私よりもずっと、怯えていた。ずっと傷ついていた。
「あの娘たちはね、誰よりもあなたの真実の姿を知っているんですよ。」
金色の髪がとてもきれいだった。その手で触れた髪の感触すらはっきりと思い出せる
「愛を求めていたが故のその心根に流れる本当のやさしさを知っているんです。だからあなたの下を離れない」
私を守ってくれた……あの銃口から。
「カール、あの娘達まで塵にしちゃあいけませんよ」
ラムサスが、彼女達の方を見る。
「おまえ達……」
「閣下……」
「もちろんあなただって塵ではない。それは私達が一番よく知っていることです」
「俺の、俺の求めていたものがこんなに近くにあったなんて……。それに気付かずに俺は……。すまぬ……」
「閣下……」
風が窓をカタカタと鳴らす中、ゆっくりと静かな時間が流れていった。
「もう、仕事に戻りましょう」
シタンが促すと全員がドアへ向かう……が、ドミニアはその場に立ちつくしたままだった。
「みなさんは先に行ってください」
シタンは他の人たちを外へ出した後、もう一度ドミニアとラムサスの方を向き微笑んだ。
「カール……。私はあなたを失いたくはない……。シグルドだって同じです。解ってください」
「ドミニア……。カールをお願いします(私ができることは、ここまでです)」
ドアが閉まり医務室には二人だけが残された。
「閣下……」
「もう……俺は閣下ではない……」
ベッドに腰掛けているラムサスは最初に出会った時と同じようにちょっと低い位置からドミニアを見上げていた。あの時と同じ色の髪……同じ色の瞳。
「カールと呼んでくれればいい」
そうだ……私、誓ったんだ……。
守ってあげるって。これからは、私がずっと守ってあげるって。
「ドミニア?」
ラムサスはドミニアの頬が一筋の涙で濡れていることに気が付き、指でそっとぬぐう。
「涙が、きれいなものだったなんて知らなかった」
その瞬間、堰を切ったようにドミニアの瞳から大粒の涙があふれ、床を濡らす。いくつもの透明な滴が光を含みきらきらと落ちていった。
いつまでも、いつまでも……。
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