大きいの。小さいの。白いもの。黒いもの。まあるいの。ほそながいの。
ミドリは手の中のものを見つめてにっこり微笑んだ。
窓の外を見ると、庭の端で娘が何やら服が汚れるのにも構わずに土を掘り返していた。
「ミドリは何をしているんですか?」
「ああ、あれ。この間、絵本を読んであげたの。そうしたら、果物の種を植えるのに夢中になったみたいで」
「…茹で栗や缶詰のさくらんぼは芽を出さないでしょうに」
ユイが差し出したマグカップを受け取る。中身は濃い目に淹れたコーヒー。
「なぜ庭の端に?」
「最初は花壇にしようと思ってたみたいだから、お花と木では生きる場所が違うのよ、と教えたの。せっかく咲いた花を枯らしてもかわいそうでしょう」
ユイがくすくすと笑う。
「芽が出て実がなるまで何年かかると思ってるんですか」
どうして止めなかったのか、と遠まわしに責める。
「あんまり真剣だったから、つい」
「ついって…」
「子供の夢を壊しちゃだめよ。時には失敗から学ぶこともあるわ」
「しかし…」
「集中すると周りが見えなくなるのは誰かさんみたいよねー」
ばつの悪そうな顔でシタンが目を逸らす。どうやら徹夜したのがばれていたらしい。
「フェイまで一緒になって」
「はいはい、わかったから。あの子達に声掛ける前に、顔くらい洗ってひげ剃ってね」
「何してるんですか」
「あ、先生。種を植えてたんだ」
顔に泥をつけてフェイが言う。
「ミドリはすごいよ。何をどこに植えたか全部覚えてるんだ」
その無駄な記憶力の良さは間違いなく遺伝ね、とユイは胸の内だけで呟いた。
ふと、ミドリがユイのスカートを引っ張る。
「どうしたの?…そう、種を植えたのに芽が出ないの?」
視界の端で夫が睨んでいるのに気づかないふりをして、わざと問いかける。
「どうしてかしら?ねえ、あなた」
「えっ、そうですね…」
急に話を振られたシタンは考える。あまり難しい言葉を使わずに、子供でも分かるように。
「ミドリ、前にユイが言ったことを覚えていますか?花と木では生きる場所が違います。」
こくり、とミドリが頷いたのを確認して続ける。
「それと同じです。あなたの植えた種の生きる場所はここではないのですよ。だから、芽が出ないんです」
「土の中で死んだってこと?」
悲しい顔で俯いたミドリの頭をなでてやりながらフェイが聞く。
「ちょっと違います。生きる場所がここではなかったというだけです。だから、ここで生きるために、一度土に戻って生まれなおすのですよ」
「また生まれてくるんだ」
「ええ、違う形でですが」
ならよかった、とフェイが笑う。つられるようにしてミドリも微笑んだ。
「今度、みんなで一緒にここでも育つ種を植えましょう。花よりも大変ですが、きちんと世話できますね?」
うん、とミドリが神妙に頷いてフェイを見上げる。
「ああ、手伝えるときは俺も手伝うから」
「2人ともおなかすいたでしょう? ケーキを焼いたからおやつにしましょうね」
話は終わったと見て、ユイが子供たちを家に促す。
「手はきちんと洗うのよ」
家に向かう子供達に聞こえないように夫に尋ねる。
「実が生るのを見られるかしら?」
「さあ…。見られると、良いですね」
いつまで続くか分からないからこそ、シタンが今を大切にしているとユイは知っている。
同時に先の見えない約束をしないことも。
だから、ユイは約束をする。
「たくさんなったらその実でケーキを焼いて、みんなで食べましょうね」
少しでも望む未来を引き寄せられるように。
了
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