ようやくハイハイのできるようになった娘と、3ヶ月ぶりに現れた夫がじっと目を合わせたまま固まっている様子を見て思わず声をかけた。
「……何してるの」
「あ、ユイ」
「何してるの?」
「いえ、ミドリをかまってあげようと思ったんですがどうしていいか分からなくて」
「そう」
「子育ての本や乳児の医学書など文献をあさったんですが、今のミドリの様子は本に書いてあることのどれにも当てはまらないんです」
ユイはすたすたと2人に近づいて娘を抱き上げて夫の手に押し付ける。
「抱っこしてその辺散歩してらっしゃい」
「えっ、ちょっと」
あまりにも慣れない手つきで支えられてミドリが居心地悪そうに身じろぎする。
「ちょっと座って。右手はこう。左手はこっち。そう、それでいいわ。じゃ、行ってらっしゃい」
「あの、ユイ」
「これから掃除するの。30分は帰ってこないでね」
ミドリは父親の顔をじっと見つめていた。その瞳を見つめ返してヒュウガは話しかける。
「追い出されちゃいましたね。ミドリはどこか行きたい場所はありますか?」
心なしか腕の中の娘が首を傾げたように見える。
「とりあえず、行きますか」
部屋から追い出してぴったり30分後に帰ってきた夫にユイは苦笑しながら声をかけた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「どうだった?」
ヒュウガは安らかな寝息をたてている娘に視線をやって答える。
「なかなか新鮮な体験です。赤ちゃんって結構重いんですね」
「ずっとその姿勢だったの?」
「ええ。腕が痺れました」
ユイはくすくす笑いながら、ミドリを受け取ろうと腕を伸ばした。
「あら…」
「おや」
ミドリは小さな手でぎゅっと父親の服を握り締めている。
「どうしましょう?」
乳児の扱いをまったく知らない夫が問いかける。
「無理やり離すのも可哀そうね。貴方、添い寝してあげて」
「えっ」
「たまには父親らしいことをしないと、父親と認識してもらえないわよ?」
「………笑えない冗談ですね」
「ま、心配ないと思うけど」
「なぜです?」
「だって貴方がこの子に触れても嫌がらないもの」
複雑な顔で沈黙したヒュウガを寝室に促す。
「私もお昼寝しようかしら」
「ユイ」
「川の字って一回やってみたかったの」
ミドリを起こさないように腕に抱いたまま布団をかぶる。姿勢が変わったことでむずがるミドリの頭をヒュウガはそっとなでた。
「そんなに壊れ物に触るようにしなくても大丈夫なのに」
ユイはおそるおそるミドリに触れる手を取った。硬くなった剣だこと、新しい殴りだこのできつつある手。素手で、人を殺せる手。
「大丈夫よ。貴方はこの子を傷つけたり出来ないわ」
「そうだといいんですが」
複雑そうに自らの手を見つめる。ため息をついて取られたままの手を引くとユイがバランスを崩してベッドに倒れこんだ。
「川の字ですね」
「そうね」
「おやすみなさい」
~後日談~
「ユイ、最近変わったことはありませんか?」
「特にありませんが。ゼファー様、何かあったのですか?」
「貴女の夫が娘をつれて難しい顔で庭園をひたすら歩き回っていたと報告が…」
「……………」
了
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