ヴァシュタールとアイリーンの会話。
覚書です。意味不明なところも多いけど印象的な会話だったので、メモしておきます。
ヴァシュタール:
なぜ、この世から、争いが、そして哀しみがなくならないのか……
それが、つらいのか、女よ。
やさしさに毒されているのだな、女。
やさしさという名の欲に。
争いはなくならない。それが摂理だ。
勝者は傲り、敗者は傷つき悲しむ。
そのゆがみの緩和が創造の絶対値なのだ。
安寧……完全に均質化された世界は
人らしく意思するものにとって
動きのない死。
怠惰なる死を恐れた大いなる意思は
この永遠に続く争いの摂理をつくった
お前が怒る不当な勝利も
お前が嘆く不当な敗北も
すべてはその中で踊っているに過ぎない
痛みは実感するだろう。
だが、勝利は迷妄。
敗北は虚妄に過ぎぬ。
真に勝利する方法は一つ
争いを楽しんで踊るだけだ。
アイリーン:
そんな理屈じゃ救われない
争いで傷つく人の哀しみは
どうなるの!
ヴァシュタール:
愛ゆえに、守りたいがゆえに戦う。
それがバカげていることに気づいたか?
それは評価しよう。
だが、お前の傲慢さはいただけない。
お前の中にある、やさしさから生まれた
弱者への支配欲ともいうべき弱者への憐れみはな。
お前の近しいものは敗れ命を落とした。
お前はそれを守りきれなかったことを嘆いている。
大儀のかかった戦いではなかった。
つまらぬことが原因で起こったそんな戦いで
なぜ命をおとさなくてはならなかった? と。
戦いの大義名分と命は別の価値だ。
そして、どんなにささいな戦いであれ
戦いに敗れれば失うものがある。
アイリーン:
…でも、そうじゃない。哀しいの。
…なぜ彼だけが痛みを背負ったの?
なぜ私はその痛みから守れなかったの?
ヴァシュタール:
もし、その者がここにいたとしても…
守れなかったお前を恨むなど
その者は思いつきもすまい。
ただ、お前とともに同じ時を
歩めなかったと残念に思うだけだ。
そして、残酷だが、そこまでだ。
アイリーン:
わからない。
ヴァシュタール:
理解したくないものは
理解できない
そういうものだ。
わからなくなったら尋ねることだ
世界にお前以外に他人がいるのは
そういうことなのだから。
この者がお前と戦うことを拒んだのも
憐れみや、恨みからではない。
そうしたいからそうしただけだ。
もう一度戦って問うてみるがいい。
何度問うても同じこと。
その者は、ただ自由にするだけだ。
価値を優先させるなら
この者はお前と戦い、
勝利せねばならなかった。
生きるとは意思すること。
命とは意思して動くこと。
価値、そして夢とはその道標を持つこと。
それ以上ではない。
価値や夢がとかく独り歩きしがちだが
この者は意思することを優先させたのだ。
アイリーン:
意思すること…生きることを…
ヴァシュタール:
愚かな女よ、お前の答えはそこにある。
そして、お前はそれを絶対に理解できない。
だが、感じることくらいならできよう。
感じるためにすべきことは
自分で考えるがいい。
繰り返され、代わり映えせぬ光と闇の戦い。
その主役がどうしたことだ?
魔人とは戦えと、教えられなかったか?
これが、意思する女というものか。
美しいぞ…もっと顔を見せてくれ…。
これは、美しい女だ。
お前が存在する、その後の世界が
退屈なものでないかもしれぬ。
私も消えるにおよばぬか。
さらばだ。
お前に勝利する必要のないことは
時に幸福な事実だ。